日本の自動車産業がとるべき戦略は「返し技」にあり和田憲一郎の電動化新時代!(44)(2/3 ページ)

» 2021年10月13日 06時00分 公開

日本の自動車産業の再生戦略を考える

 さて、このように新たな法案が次々と公表されているが、日本の自動車産業はどのように対応すべきであろうか。多くのことが想定できるが、考え方として大切と思われるものを、短期(3〜5年)、中長期(5〜15年)にまとめてみた。

短期戦略(3〜5年)

 上述の通り、大口市場である欧米中の動向を無視してはビジネスが成り立たない。特に欧州は、2020年にEV/PHEVの販売台数で中国を抜いて世界トップに立った。ではどうするか。喫緊の課題である欧州法案への対応である。

 よく考えて欲しい。職員2万5000人以上を擁する法律の専門家集団である欧州委員会は、2021年に公表した法案(草案)に基づいて、欧州企業にゼロエミッション化の技術開発を要請している。しかしながら、バッテリー、e-Axle(モーター、インバータ、トランスミッション)、要素となる高機能パワーデバイス、水素関連のスタック技術、充電インフラ、水素ステーションなど求められる各技術について考えると、欧州企業のレベルは日本と比べて必ずしも高いわけではないのではないか。

 ということは、日本は欧州委員会の法案のエッセンスは取り入れながら、実際の技術開発は日本が先導して行うことも可能である。「虚に実をぶつける」というか、法案という、まだ実態のないものに対して、実際に商品や部品を準備して攻勢をかける方法である。

 武術では「後の先(ごのせん)」ともいわれる。相手が立ち上がった瞬間、自分は既に察知しており、十分な体勢になっていることが挙げられる。法案でものごとが動く訳ではなく、実態としての商品や部品で勝負が決まることを考えるべきであろう。その場合、最も重要なことはスピードである。相手が準備万端となってからでは間に合わない。

 日系部品メーカーの中には、自動車関連以外のビジネスも展開しているところもあろう。「Fit for 55 package」では、船舶も対象である。これまでディーゼルエンジン主体であったものを、ゼロエミッションに変換すべく、電動船、もしくは水素活用の船舶に変更を要望している。既にフェリーや定期運航便など完全電動船を導入し始めたところもある。また、建設機械や農業機械も電動化が進みつつある。とにかく、欧州の動きは全てのモビリティに波及していると考えた方が良い。

 もし、欧州のこの動きに対して「まだ草案段階だから決まってから動けば良い」「現状は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復基調にあり増収増益だから大丈夫」とゆでガエル的に見ていると、あっという間に欧州勢によってお膝元の欧州地域、さらには他地域の市場まで刈り取られる可能性が出てくる。いま一度、海外勢のスピードアップに対して、日本の自動車産業もアクセルを踏むことを提案したい。

 なお、2021年11月上旬から英国グラスゴーにて「国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)」が開催される。これに先立ち、議長国である英国首相のボリス・ジョンソン氏は、9月22日の国連総会の一般討論演説にて「人類にとっての転機になる」と語っている。かなり踏み込んだ内容になると思われる。

中長期戦略(5〜15年)

 もう少し視点を先に置くと、以下3つを提案したい。

(1)日本版ZEV規制の導入

 政府のグリーン成長戦略では、2035年に電動車100%を目指しているが、そこに至るまでの道筋がみえない。また、達成した企業と達成しない企業には不公平が生じるため、そのような状態を解消するためには米国カリフォルニア州で実施しているZEV規制を、日本版に修正し導入すべきではないかと考える。つまり、達成できている企業は他企業にクレジットとして販売可能であり、逆に達成できない企業は他企業からクレジットを購入する必要が出てくる。EV/FCV/PHEV/HEVの比率なども、政府関係者などで協議すべき項目であろう。

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