三菱電機は、次世代移動体通信技術の5Gをはじめ、現行の3Gや4Gで用いられる複数の周波数帯に1台で対応できる移動通信基地局向け「超広帯域デジタル制御GaN増幅器」を開発したと発表した。
三菱電機は2019年1月10日、東京都内で会見を開き、次世代移動体通信技術の5Gをはじめ、現行の3Gや4Gで用いられる複数の周波数帯に1台で対応できる移動通信基地局向け「超広帯域デジタル制御GaN増幅器」を開発したと発表した。現在の基地局向け増幅器に用いられている「ドハティ増幅器」は、高効率である一方でカバーする周波数帯域が狭いという課題があるため、今回のように1台で複数の周波数帯に対応する増幅器は「世界初」(三菱電機)とする。現時点では原理検証が完了した段階であり、2019年度以降に通信用変調波信号を用いた実証を進めたい考え。
今回開発した増幅器は、2020年から導入が本格化する5Gに向けた広帯域かつ高効率の増幅器になる。三菱電機は、次世代デバイス技術であるGaN(窒化ガリウム)を用いた増幅器を2017年1月に開発しているが、この成果を基に2つの新たな技術を採用することで、「増幅器の広帯域化と高効率化を両立させることに成功した」(三菱電機 情報技術総合研究所 所長の中川路哲男氏)という。
新技術の1つは、広帯域動作を実現する独自の負荷変調回路である。2017年1月に開発したGaN増幅器はドハティ増幅器であり、中心周波数帯に対して600MHzの帯域幅でしか有効な電力効率を確保できなかった。
今回開発した負荷変調回路は、広帯域での負荷変調動作を可能にする非対称合成回路となっており、1.4G〜4.8GHzの周波数範囲で有効な電力効率を出力できることを確認した。
もう1つは、デジタル制御による高効率動作の実現になる。このデジタル制御部では、周波数や出力電力に応じて高効率を実現できるように入力信号の制御を行う。併せて、三菱電機のAI(人工知能)技術「Maisart」を用いて、入力電力、出力電流、出力電流などの測定結果をリアルタイムにフィードバックして学習を行い最適値を探索。出力電力、電力効率、増幅器利得などから成る総合評価関数に基づいて、自動最適制御を行う仕組みになっている。
これら2つの新技術により、1.4G〜4.8GHzの周波数範囲(比帯域110%)で電力効率40〜60%を達成した。
2020年から5Gの導入が始まっても、従来の3Gや4Gも併用されることになる。過渡期としては、3Gと4G、5Gの基地局がそれぞれ設置されることになるとしても、その後基地局の機能を統合/集積していく段階がくる。新開発の増幅器は、3G、4G、5Gの全てに対応できることから、そういった段階での需要に対応するものだ。
なお、移動体通信では1GHz以下の周波数帯も用いられるが、今回の開発成果となる原理検証で選んだ3.3GHzの中心周波数帯をずらすことでカバーできる。一方、5Gから採用される20GHz以上のミリ波帯については「そこまで幅広い周波数帯を1台の増幅器でカバーするのはムダが多くなるので、従来のドハティ増幅器を用いることになるだろう」(三菱電機 情報技術総合研究所 マイクロ波技術部長の下沢充弘氏)としている。
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