理化学研究所が、ラットでプラセボ(偽薬)効果を再現し、プラセボ効果に関与する脳内領域を同定することに成功した。
理化学研究所は2018年11月5日、ラットでプラセボ(偽薬)効果を再現し、プラセボ効果に関与する脳内領域を同定することに成功したと発表した。同研究所生命機能科学研究センターユニットリーダーの崔翼龍氏らによる研究成果だ。
同研究では、ラットに4日間鎮痛薬を繰り返し投与し、5日目にプラセボとして生理食塩水を投与したところ、有意な鎮痛効果を示す個体が現れた。これは、鎮痛薬の鎮痛効果と投与行為が条件付けられ(パヴロフの条件付け)、プラセボによって痛みを抑制する神経系が活性化されたことを示す。
さらに、プラセボ効果を示した個体と示さなかった個体の脳をPETで撮像し、脳の活動領域を比較した。プラセボ鎮痛効果を示したラットは、対側の前頭前皮質内側部(mPFC)などの領域で神経活動が上昇していた。
続いて、mPFCを局所的に破壊したラットを条件付けしてプラセボを投与すると、プラセボ鎮痛効果は見られなくなった。さらにミューオピオイド受容体の拮抗阻害剤を投与すると、mPFCと痛みの制御に深く関わる腹外側中脳水道周囲灰白質の機能的結合が低下し、プラセボ鎮痛効果が遮断された。これらの結果から、条件付けによるプラセボ鎮痛効果が、mPFCのミューオピオイド受容体の制御を受けることが判明した。
これまでの研究では、霊長類の背外側前頭前皮質(dlPFC)が、プラセボ効果における予測や期待感に関与することが報告されていた。ラットなどげっ歯類のmPFCとdlPFCは、発生起源を同じくする部位であると考えられている。今回、ラットでヒトのプラセボ効果を再現し、解析することに成功した。プラセボ効果を合理的に活用できれば、治癒効果の向上や投薬量を減らすことによる副作用の予防などにつながることから、今後のプラセボ効果の全貌解明が期待される。
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