理化学研究所は、次世代スーパーコンピュータで、ヒトの脳全体の神経回路のシミュレーションができるアルゴリズムの開発に成功した。メモリを省力化し、既存のスパコン上での脳シミュレーションを高速化できた。
理化学研究所(理研)は2018年3月26日、次世代スーパーコンピュータ(スパコン)で、ヒトの脳全体の神経回路のシミュレーションができるアルゴリズムの開発に成功したと発表した。同研究所計算科学研究機構の佐藤三久氏らによる国際共同研究グループが開発。新アルゴリズムは神経回路シミュレーター「NEST」の次期公開版に搭載される。
新アルゴリズムは、シミュレーション開始時に、電気信号を送るかどうかの情報をあらかじめ計算ノード間で交換し、各計算ノードが必要とする電気信号のみを送受信できるようにした。
その結果、無駄な送受信がなくなり、電気信号を神経細胞に送るか送らないかを判定するメモリも不要になった。これにより、神経回路の規模が大きくなっても、1計算ノードあたりのメモリ量は増えず、省メモリ化できた。
新アルゴリズムの導入により、次世代スパコンで脳全体のシミュレーションが可能になり、従来のスパコンでの脳シミュレーションも高速化できる。2014年に行われた5億2000万個の神経細胞が5兆8000億個のシナプスで結合された神経回路のシミュレーションは、1秒間分の神経回路のシミュレーションに28.5分を要したが、新アルゴリズムでは5.2分に短縮できた。
今後、次世代ハードウェアと最適なソフトウェアを組み合わせることで、数分間の時間スケールで起こるシナプス可塑性や学習のような脳機能に関する研究が可能になる。また、次世代スパコンでヒトの脳全体の神経回路をシミュレーションし、脳の情報処理や脳疾患の機構の解明への貢献が期待できるとする。
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