東北大学の電気通信研究所は、2014〜2019年度のプロジェクトで、AI(人工知能)に最適な脳型LSIの開発を進めている。脳機能をモジュール化して計算効率を高め、人間の脳と同等レベルの処理能力と消費電力を持つ脳型LSIの実現につなげたい考えだ。
東北大学の電気通信研究所は2017年3月1日、東京都内で記者説明会を開催。同研究所が手掛ける最新の研究テーマについて、担当の研究者から研究の概要や進捗状況が語られた。
説明会では、同研究所の副所長 教授でブレインウェア研究開発施設 施設長も務める羽生貴弘氏が「人間的判断に基づく新概念脳型LSIの研究開発」について紹介した。
従来型のノイマン型コンピュータに基づくプロセッサは、AI(人工知能)に用いられるような超並列の分散処理に最適ではないといわれている。羽生氏は「従来型コンピュータは人間の脳の左脳に当たる機能を有しているが、AIに最適なのは右脳を模した脳型LSIコンピュータだ。電気通信研究所では20年近く脳型LSIコンピュータの開発に取り組んできた」と説明する。
羽生氏を中心とするブレインウェア研究開発施設は、2014〜2019年度にかけて行う「脳型LSI(BLSI)プロジェクト」を立ち上げることで、さらに研究を加速させようとしているのだ。
従来型コンピュータでAIを処理する際の最大の問題として挙げられているのが極めて大きな消費電力だ。囲碁のチャンピオンに勝利した「AlphaGo」を動作させるサーバの消費電力は1MWに達するが、対する人間の脳の消費電力は5万分の1の20Wと小さい。
消費電力を大幅に下げつつ、AIの処理能力も高めていくには、従来型コンピュータとは全く異なるアーキテクチャのプロセッサが必要になる。その候補となるのがBLSIプロジェクトが研究している脳型LSIである。
人間の脳を模倣したプロセッサの研究については既にさまざまな発表が行われている。最も有名なのが、IBMが開発した「TrueNorth」だろう。TrueNorthは、人間の脳の構成要素であるニューロン(神経細胞)の構造をシリコンCMOSプロセスで再現している。
BLSIプロジェクトは、人間の脳が各領域で機能分化していることに着目し、それらの脳機能をモジュール化して高い計算効率を達成するという考え方に基づいている。これによって、一般的なシリコンCMOSプロセスで、ニューロンを基にしたTrueNorthからさらに消費電力を10分の1に削減できると想定している。そしてのこの新たな脳型LSIのアーキテクチャに、脳型LSI向けの新たな材料、デバイス技術を融合することにより、さらに10分の1の消費電力低減を目指す。その結果として、人間の脳クラスのニューロン(1兆個)を持つ脳型LSIの消費電力を30Wまで削減できると見込んでいる。
BLSIプロジェクトで開発を進めている脳型LSIは、IoT(モノのインターネットのフレームワークでいえば、クラウド側ではなく、エッジ側で利用することを想定している。
また、これまでの研究の中で、脳型処理アルゴリズムや脳型LSIプラットフォームで「世界初」とする成果を多数得ている。「特に画像認識系では良い成果が得られている」(羽生氏)という。
今後は、2017年度に脳機能のモジュール化と小中規模の脳型LSIの設計と試作を行い、2018〜2019年度にかけて、モジュール化した脳機能を脳型LSIとして集積、大規模化する検証を行うことになる。
羽生氏は「脳型LSIの研究開発は海外を含めてまだ始まったばかり。日本が培ってきたLSI技術を活用すれば有力な成果が得られるだろう」と述べている。
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