AIは開いた世界で力を失う、弱点を補う人間の存在人工知能(1/2 ページ)

2017年1月18〜20日に開催された「AIカンファレンス2017」の基調講演に日本のAI研究の第一人者といわれる国立情報学研究所の山田誠二氏(人工知能学会会長)が登壇。人とAIの望ましい関係性について語った。

» 2017年01月24日 14時00分 公開
[長町基MONOist]

 人工知能(AI)の先端情報を発信する「AIカンファレンス2017」(2017年1月18〜20日、東京ビッグサイト)がこのほど開催された。その基調講演に日本のAI研究の第一人者といわれる国立情報学研究所の山田誠二氏(人工知能学会会長)が登壇。「進化するAIの現状と今後の産業発展のために」をテーマにAIの歴史、現状とともに今後の発展の方向性について語った。

60年の歴史があるAI

 実際のAI(Artifical Intelligence)の研究が始まったのは1956年に開催されたダートマス会議からといわれている。それから第1次ブーム(1950年〜1960年)が始まり、現在まで約60年の歴史がある。

 AIには「強いAI」と「弱いAI」がある。「強いAI」は単独で人間と同等のAIを目指すもので、どちらかというと科学的思考性が強い。多くの研究者は強いAIを目指すが、うまく研究が進まないため、特定の分野で人間のタスクを支援する知的システムである「弱いAI」へと移るケースが多い。ただ、一部にはまだ汎用人工知能(AGI)への注目も残されている。シンギュラリティ(技術的特異点)など、2045年には人間を凌駕(りょうが)するAIが出現するという予測もある。

photo 国立情報学研究所の山田誠二氏(人工知能学会会長)

 山田氏はAIについて「研究として目指しているのは、人間並みの知的な処理をコンピュータ上に実現することだ。コンピュータ上ということはプログラミングに書くことであり、プログラムに書けるということは、どういう手続き、処理を行っているかということが、人間が言語のかたちで記述できるかどうかということだ」とかみ砕いて表現する。

 第1次に続き、1970〜1980年代に第2次AIブームが到来した。この時代は記号や理論が全盛で、ほとんどのメーカーでエキスパートシステムを自作する動きがあった。日本では新世代コンピュータ開発機構(ICOT)による第5世代コンピュータプロジェクトが発足した。その後1990〜2005年まではAI冬の時代といわれたが、2005年からは第3次AIブームが訪れ、現在に至っている。

 現在のAIブームをけん引しているのはデータマイニングやディープラーニングなどの統計的機械学習である。これが第1次や第2次ブームとの違いを生み出している。「統計的機械学習が昔と比べてうまくいくようになったのは、インターネットの普及などでデータが豊富にしかも安価に手に入るようになったことと、コンピュータの性能が高まったことが要因である」と山田氏はその理由を語っている。

統計的機械学習が第3次AIブームのカギ

 AIの研究分野は広範囲に広がっているが、研究としての主流は論理や記号など、知識を扱うものが多く、機械学習(ML)は、AIのごく一部である。ニューラルネットワーク(NN)はさらにその一部であり、ディープラーニングはこのNNの一部で「全体でみると数十分の1から100分の1の規模であり『AI=ディ―プラーニング』というのは間違った認識である」と山田氏は指摘する。

 しかし、現在のAIブームにおいて統計的機械学習とデータマイニングは中心的な役割を担っている。機械学習には(教師あり)分類学習、行動学習(強化学習)、(教師なし)クラスタリング、半教師あり学習、トランスダクティブ学習などの分類が可能だ。

 これらの中で最も応用されているのが(教師あり)分類学習で、データをクラスAとBの2つに分類するというものだ。例えば、画像の分類を行う場合、人間だと画像を見れば、AかBかというものは、すぐに分かるのだが、コンピュータには分からない。そのため大量にデータを入力し、ある種の関数(判別関数)を学習するという枠組みを構築していく。データマイニングはこうした機械学習で大規模データの分析を行うものである。

 統計的機械学習は応用数学に基づく機械学習であり、基本的な枠組みは、学習の問題を最適化問題に変換して解くということを行う。最適化問題は目的関数と制約式で形式化する。統計的機械学習の例としてはSVM(サポートベクターマシン)などがある。

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