まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年8月のサブテーマは『汎用工作機械での3Dデータ活用を考える』です。
まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年8月のサブテーマは『汎用工作機械での3Dデータ活用を考える』です。
数台の治具フライス盤と平面研削盤だけで事業を営む、職人集団的な加工屋さんでの出来事です。電話口で何やらもめているので、後でお話を聞いたら、客先から支給された図面通りに加工して、検査も行い合格品として納めた品物が「形状不良および寸法不良」と判定され、「大至急で再製作しなさい。無償でな」と一方的な連絡があり憤っているというのです。客先からは図面の他に3Dデータも支給されていたそうですが、この加工屋さんの設備は創業時から汎用工作機械のみ。今でも図面だけを頼りに加工しているのです。
つまり、3D CADどころかビュワーすら持っていないので、「図面さえあればいい。開けない添付ファイルは見ない」という、当たり前といえば当たり前のスタンスでお仕事をされているのです。確かに、図面と3Dデータは、出力の形式が違うだけで元は同一のはずですから、どれか1つあれば作業は出来ますからね。ところがこのトラブル、「元は同一のはず」というところに問題が隠れていたようです。
原因は、支給されたファイルの中身にありました。客先の設計者は、支給用に3Dモデルと図面を用意した後に、社内の修正指示を受けて3Dモデルを更新したそうです。この時に、図面の更新作成をし忘れて、修正後のデータと修正前の図面をひとまとめにして支給してしまったというのです。加工屋さんでは支給された図面が元の3Dモデルとはリビジョン番号が異なるなどとは思いもせず、いつも通りにキッチリ作業した結果、気の毒なことに不良品ができてしまって大騒ぎ! となったのです(図)。
設計変更の内容的に追加工が出来ず、再製作は避けられなかったのですが、その費用については「客先持ち」で話がついたそうです。でも「これにて一件落着」ではありません。発注者側のミスとはいえ、加工屋さんは本来やらなくてもいい再製作という作業のために、次に取り掛かる予定の仕事を後回しにして、いったんばらした段取りを再度組むなど、負担を抱えることになったからです。
「ああ、これが自分が依頼したモノじゃなくて本当によかったわ」とホッとしたものの、自分も同じ間違いをしでかす可能性は大いにあるわけで、実に身につまされるお話でした。
支給データがらみの問題は、他の加工屋さんでも耳にします。「CADで描かれた図面は寸法の表示が小さすぎて老眼にはキツイ」だとか、「DXFデータを開いたら、図形と数字以外が文字化けしていて何がなんだか分からない」というケースです。これは、客先の設計者が、3Dデータから作成した図面をDXFデータで出力して支給し、それを加工屋さんがCADで開いて印刷して、紙図面として扱う場合の諸問題ですね。
また、「支給された図面とそのDXFデータの縮尺が違っていて戸惑っている」というのもよく聞くお話です。DXFファイルは1:1(原寸)で作成されるので、この場合では、読み手側がCADの縮尺を操作して図面上の寸法との整合を取ることになります。いずれのケースも客先との確認が必要となり、大なり小なり作業の障害になっています。
こうしたCADデータや図面にまつわる加工者側の手間は、何かトラブルでも起きない限りなかなか設計者には伝わってきません。世は3D化推進の真っ只中ですし、先々を思うと、たとえ汎用工作機械での加工であっても、これからは図面とともに3Dデータを共有できる環境が必要なのではないかと考えるのです。
次回は『SCENE 3:悩ましき「ブランク品」の図面たち』をお届けします。ブランク品は加工屋さんを渡り歩きながら姿を変えていくわけですが、その図面ってどうなっているのかしら?(次回へ続く)
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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