名古屋大学は、大腸菌の中にある酵素のスイッチをオン状態にすることが可能な化学物質を開発し、ベンゼンを常温常圧の温和な条件でフェノールに変換する細菌を開発した。
名古屋大学は2018年6月4日、大腸菌の中にある酵素のスイッチをオンの状態にすることが可能な化学物質を開発し、ベンゼンを常温常圧の温和な条件でフェノールに変換する細菌を開発したと発表した。この成果は、同大学物質科学国際研究センター 教授の渡辺芳人氏らの研究によるものだ。
従来のクメン法では、ベンゼンからフェノールを合成するのに高温高圧の条件と多段階反応を要した。今回開発した手法では、シトクロムP450BM3と呼ばれる酸化酵素を大腸菌に取り込み、大腸菌の培養液にベンゼンを添加するだけでフェノールに変換される、一段階かつ室温での反応が可能となった。また、反応時間を調整することによって、フェノールがさらに酸化されたヒドロキノンを得られた。
具体的な反応を見ると、長鎖脂肪酸を水酸化するシトクロムP450BM3を大腸起菌に生合成し、疑似基質(デコイ因子)を反応溶液に添加することでベンゼンがフェノールに変換された。5時間の反応でフェノールの収率は59%に達する。ヒドロキノンは16%の収率で得られ、ベンゼンの転換効率は75%に達した。
デコイ因子を利用する手法は、天然に存在する酵素をそのまま利用できる。そのため、遺伝子操作で酵素自体を改変する必要がなく、同じ酵素の遺伝子を持つ細菌を用いて同様の反応を行うことも可能だ。
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