名古屋大学は、ドラッグリポジショニングのアプローチから、ヒトの細胞に存在する体内時計を制御できる薬を発見した。さらに、その薬がマウスの活動リズムを早回しし、時差ぼけを軽減することも発見した。
名古屋大学は2018年4月23日、既存薬を使ったドラッグリポジショニング(既存薬再開発)のアプローチから、ヒトの細胞に存在する体内時計を制御できる薬を発見したと発表した。また、その薬がマウスの活動リズムを早回しし、時差ぼけを軽減することも分かった。同大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 教授の吉村崇氏らの研究グループと、基礎生物学研究所、京都府立医科大学、近畿大学の共同研究によるもの。
ヒトの体内には、1日のリズム(概日リズム)を刻む体内時計(概日時計)が備わっている。概日時計は、睡眠・覚醒リズムの他、ホルモンの分泌や代謝活動の制御にも重要な役割を果たしている。この体内時計が慢性的に狂うと、生活習慣病やがんなどのリスクが高まるため、これらを克服する薬の開発が期待されていた。
ヒトの概日時計は体のほぼ全ての細胞に存在し、時計遺伝子とそれから作られる時計タンパク質「CLOCK」「BMAL1」によって制御される。研究グループは、BMAL1が1日に1度、転写される様子を蛍の発光遺伝子の発光リズムとして捉え、ヒトの細胞に存在する概日時計を調節する薬を探索した。
具体的には、発光遺伝子を導入したヒトの骨肉腫由来の培養細胞を384個の穴のあいたプレートに入れ、それぞれの穴に既存薬を加えた。その結果、約1000個の既存薬のうち、59個の薬が概日時計の周期を長くしたり(46個)、短くしたり(13個)する影響を与えることが分かった。
さらに、発見した体内時計の周期を短くする薬13個のうち、ステロイドホルモンの「DHEA(Dehydroepiandrosterone)」に着目。DHEAは、アメリカでサプリメントとして処方箋なしで販売されている。これを混ぜたエサをマウスに与えたところ、通常1週間かかる時差ぼけの解消が、2〜3日程度に軽減された。今後は、DHEAがヒトの時差ぼけを軽減できるか否かの解明が課題とされる。
今回の研究成果から、ドラッグリポジショニングのアプローチが時差ぼけを解消する薬の探索に有効であることが示された。将来的には、既存薬を用いてヒトの時差ぼけを軽減することが期待される。
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