MONOist モビリティサービスのプラットフォームはトヨタ自動車以外も用意しています。どこの企業がより広く採用されるかの競争になるのでしょうか。
山本氏 協調や融合の方がよい。トヨタのビッグデータは、クルマの走る曲がる止まるや位置情報しかない。もっといろいろなところとくっつけた方が、できることが増えて付加価値も生みだしやすい。2018年1月のCESで披露したコンセプトカー「e-Palette」の狙いもそこにある。
われわれは自動運転車のインタフェースをオープンにして提供するので、皆さんのサービスを乗せてください、どう社会を作るか一緒に協力しましょう……ということだ。自動車会社1つはちっぽけな存在だ。データをもっと持っている会社は他業界にたくさんある。
ビッグデータをビジネスにする上では「自分たちが一番だ、自分たちで全部やるぞ」というマインドセットを変えなければならない。自前であらゆるデータを集めるのは無理があるし、違う会社同士で持ち寄って何ができるか考える方が面白い。自分たちも社会の一部で、協力していいものを作る考え方にならないと生き残っていけない。
MONOist 2016年4月にカンパニー制に移行して、コネクティッドカンパニーができました。その効果は。
山本氏 車両の各カンパニーと独立しているのは、モノづくりとは異なるタイムスパンで意思決定しようという会社としての方針だ。器(カンパニー)ができ、意識も根付いたが、今までやったことのないプロセスで仕事をするのは簡単ではない。
いま取り組んでいるのはアジャイル開発だ。ユーザーエクスペリエンスを基にして、どんな技術を組み合わせるか、実行してダメだったらやり直す、というのをいかに定着させるかという段階だ。
MONOist モノづくりと仕事の進め方が大きく異なるということでしょうか。
山本氏 モノづくりとコトづくりでは、タイムスパンが違う。クルマは2〜5年のサイクルでやっているが、サービスの世界はどんどん変わる。クイックに、やってだめなら次の手をとどんどん詰める繰り返しをどれだけやれるかが問われる。また、ハードウェアではなく、クラウドの中でどうサービスを作るかという競争になる。そこで手の内化が必要になる。
モノづくりではハードウェアでいかに付加価値をあげるか、という作り方だった。サービスは、初めは車載機の中でいろいろなことをやっていたが、オペレーターサービス等も含めてクラウド側に機能が移っていくので、作り方が全然ちがう。クラウドの中で、ソフトウェアをトライアンドエラーでどんどん変えていくことが必要になる。
MONOist 今後、どのような業界と実証実験に取り組みたいですか。
山本氏 協業は、さまざまな企業と検討している。2017年の東京モーターショーで展示した通信型ドライブレコーダー「トランスログ」を見て、防犯関連の会社から一緒にできることがありそうだとお話をいただいた。トランスログ搭載車が増えれば、動く防犯カメラとして機能し、犯罪に対する抑止力になる。駐車違反の効率的な取り締まりもできるかもしれない。
実証実験からビジネスモデルを検討してそこからマネタイズできるかというと、簡単ではない。コネクテッドカーのビジネスは、2025〜2030年に市場規模が成熟すると予測されている。そこに自動運転が絡めばさらに幅が広がるだろう。クルマを作って売る従来のビジネスのように、サービスが収益を生むようになるには時間がかかる。2030〜2035年ごろだろう。それまでの間、投資を継続する方針はぶれていない。米国のToyota Research Institute(TRI)が東京でも人員を増やす。ソフトウェア人材を重視するという判断であり、継続して投資を行う意思表明だ。
MONOist モビリティサービスの中で5Gをどう活用しますか。
山本氏 5G採用の見通しは立ちにくい。5Gを4Gと同じ形で使うとなると、基地局のコストが通信キャリアに跳ね返ってくる。さらに、5Gの周波数帯の特性(直進性)を考えると、4G以上に基地局が必要になると考えられる。個人的な考えでは、自動運転のシャトルバスなど決まったルートで使える場面、決まった地点からたまったデータをアップロードするような場面で5Gが使えるだろう。
「Mobile World Congress(MWC) 2018」に行くと5Gまっ盛りだったが要素技術と標準規格が中心で、どう使えるかという提案は見られなかった。自動車業界からは高いから使えないかもしれないという声もある。ITSインフラは変わらないことが重要だ。3G、4G、5Gに代わっていくとお客さまが困ってしまう。一度作ったインフラを長く使って行くという意味では、DSRCがよいと考えている。
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