SCF2017 特集

これが東芝の生きる道、デジタル変革で実現するモノづくり新時代SCF2017(2/2 ページ)

» 2018年01月25日 10時00分 公開
[長町基MONOist]
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デジタルトランスフォーメーションの意義

 デジタル化の波は、10年前のiPhoneの登場により一気に進んだ。ビデオカメラ、音楽プレーヤー、ゲーム端末、カーナビなどの市場が相次いで飲み込まれている。これらの動きもデジタルトランスフォーメーションがもたらすものの1つといえる。そして、スマートフォンはFacebook(利用者数20億人)Twitter(3億人)、Amazon.com(売上高1360億ドル)、Uber(75カ国に拡大)Airbnb(3万3000都市に拡大)などの市場を作り出す基盤となった。

 こうしたB2Cで起こっていることが産業界にも押し寄せてきている。その背景にはネットワーク化、ソフトウェア化、デジタル化の進展がある。付加価値の源泉がハードウェアから、ソフトウェアやデータにシフトしており、産業領域で新たなエコシステムや「場」を作る動きが活発化している。オープンな場で提供者と参加者が自由に経済活動を行っている。また、自動車ではソフトウェアによって自動運転などを含め、自由に機能や仕様が変えられるようになるなど新たな顧客価値を創出できるようになった。さらにデジタル化が進んだことで、時間と空間という物理的制約を受けずにさまざまなことが可能になるなど業務プロセスが変化している。

 東芝ではデジタルトランスフォーメーションについて、大きく、ビジネスプロセスを変革する(Change)と新しいビジネスモデルを創造する(Create)の2つを説明している。さらに、デジタルトランスフォーメーションで目指すものとしては「既存のモノを破壊的なイノベーションで壊すことではなく、既存の製品を利用して変えていき、その上に新しい市場と新しい価値を載せていくことだ」と錦織氏は説明した。

デジタルツインとAI技術

 日本には都市化、エネルギー・資源、高齢化・労働人口の減少などに関する課題が山積されている。特に労働人口に関しては2015年の7592万人から2030年には6875万人へと約700万減少する見通しだ。政府では、そうした中で「人と機械・システムが協調する新デジタル社会の実現」「企業、産業、国の協働による地球環境規模での課題解決」「デジタル技術の進展に即した人材育成の推進」の3つを柱に「Society5.0(超スマート社会)」を目指している。これにより高い技術力と現場力を人間本位のソリューション志向に生かす方針だ。

 一方で、日本の企業のIoT導入率は2016年5.4%、2017年6.0%で、世界平均の30%に対して24%のギャップがあるという統計がある。こうした状況から抜け出し、初期市場からメインストリーム市場に移行するためキャズム(越えなければならない深い溝)を越えるには、新しい価値の訴求が必要となっている。

 東芝ではデジタルツインとAI技術によりこのキャズムを越えることに取り組んでいる。デジタルツインとは、工場や製品などに関わる物理世界の出来事を、そっくりそのままデジタル上に時間と空間を超えて複雑な事象をシミュレーションし再現・予測するものだ。実際に製造する工場や出荷する製品を、システム上にあたかも双子のように現実世界を模したシミュレーション空間を構築し、現実の工場の制御と管理を容易にする。

 また、AI技術にはモノに関わる「SATLYS(サトリス)」と人に関わる「RECAIUS(リカイアス)」がある。RECAIUSは東芝が長年研究してきた音声認識、音声合成、翻訳、対話、意図理解、画像認識(顔・人物画像認識)などのメディア知識処理技術(メディアインテリジェンス技術)を融合し体系化したサービスだ。人と人のコミュニケーションをサポートする。

 例えば、顧客からの問い合わせがあるとオペレーターとの会話をテキスト化し、知識として蓄積する。製造などの作業現場でも機器のデータを収集し、ベテラン作業者の業務データなど個人の行動からも学習する。SATLYSはAI技術を活用し、高精度な識別、予測、要因推定、異常検知、故障予兆検知、行動推定などを実現する。東芝メモリの四日市工場における半導体製品の歩留まり監視や、ドローンによる送電線異常検知などにも展開する。

 東芝ではこれらの技術を用いて日本のモノづくりの継承と発展に貢献する方針だ。「職人など現場の熟練者(匠)の経験や暗黙知などがデジタル化、ドキュメント化されていない。これらの日本財産といえるものをIoTやAIで数値化・形式知化することで、熟練者を継承し、自動自律化、人材育成にまでつなげる。さらには匠を超えたものへと結び付けることを目指す」(錦織氏)としている。暗黙知のデジタル化により、匠の技術にさらに新たな気付きをプラスすることで、最終的には人を介さずシステムの自律化(自動判断)が実現する世界を追求する。

 こうした取り組みで、匠の世界をデジタル化するとともに日本品質で展開し、労働人口の減少を補い、さらにつながる工場で匠の技を共有することで、海外工場へ日本品質を展開することも可能となるとしている。

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