では、これに“統計学的”な考え方を取り入れた場合は、どのようになるのでしょうか。統計学的に考える場合には、“正規分布”を考えます。
“正規分布”の詳細については、次の機会にお話しします。また上図は再び登場します。ここでは、“正規分布”でバラツキを考えた場合、「必ずしもワーストケースにはならない」ということでお話を進めていきます。
すなわち、±0.1[mm]と寸法公差が設定された部品は、必ずしも最大値+0.1[mm]、最小値−0.1[mm]として存在することは、“統計学的”には考えられないということになります。
この場合は、下記のように計算を行います。
この計算を「不完全互換性の方法」「√(ルート)計算」と呼びます。この不完全互換性の方法からいえることは、±0.1[mm]の寸法公差値によって設定された部品では、“正規分布±3σ”においては、99.7%の確率で、10±0.22[mm]の値に収まるということになります。また、不完全互換性の方法では、互換性の方法と異なり、ここの例では部品を入れ替えた場合、完全な互換性がないことも示しています。
注意としては、この不完全互換性の方法を使用するには、その構成部品は“正規分布”の状態にあることが条件ですので注意しなければなりません。統計学的に考えているのであれば、ある確率において良品と不良品が存在しているという考え方に基づいていることになります。
「互換性の方式」と「不完全互換性の方法」を比べてみると、同じ公差が設定された部品にもかかわらず、その組み立て後の公差値が、互換性の方法が不完全互換性の方法よりも大きなことが分かります。
ここまででは、部品に設定された公差値から組み立て後の製品の公差値を求めましたが、逆に組み立て後の公差値を決めた後で、どのように部品に対して部品を設定するのかという見方をしてみます。
先ほどの部品と同じ形状で、組み立て後の公差値を±5[mm]を満足するような部品への寸法公差を、互換性の方法と不完全互換性の方法で計算してみましょう。
部品の寸法公差をAとします。
部品の寸法公差をBとします。
先ほどの製品の結果と同じになることは当然なのですが、見方を変えることで、同じ組み立て後の公差を満足する上では、不完全互換性の方法を取ることにより、寸法公差は緩くできるということが理解できると思います。
しかし、注意事項として、不完全互換性の方法は、構成部品が正規分布にあることを条件としました。“正規分布”のデータを得るには、大量な部品製作におけるデータ取りが必要になるため、不完全互換性の方法は量産向きであることが言えます。
では、私のように大量生産を行わず、必要な時に必要な数のみを個別受注生産するような企業においては、この不完全互換性の方法は当てはまるのでしょうか。このような条件下で同じ部品を製作する場合には、“統計学的”に“一様分布”を考えます。
この“一様分布”も先ほどの“正規分布”同様に改めてお話ししますが、下図のような考えに基づきます。
個別受注生産型企業で、受注ごと製作される部品もある正規分布を取りながら、上図で言うU(アッパーリミット)、L(ロワーリミット)の中に存在するという考え方ができるというものが、“一様分布”にあるということになります。
そのような製品の場合、加工する人は加工図面の公差に入れるように努力します。結果その公差値に収まるわけですが、その製作の都度、その中心値は異なる可能性があります。そのようなことから“正規分布”を取りながら、“ある区分”すなわち許容値の中を移動しているという考え方が成り立つわけです。
次回も“統計学的な”お話を続けたいと思います。(次回に続く)
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