フランスのエアバスは、JALおよびJALエンジニアリングと協力し、マイクロソフトの「HoloLens」を活用したMR技術を用いた訓練アプリケーションのプロトタイプを開発した。
フランスのAirbus(エアバス)は2017年11月14日、日本航空(JAL)、JALエンジニアリングとの協力により「Microsoft HoloLens(以下、ホロレンズ)」による複合現実(Mixed Reality、MR)技術を活用した新しい訓練アプリケーションのプロトタイプを開発したと発表した。
エアバスでは、2013年にJALから「A350 XWB」を31機とオプション25機を受注した。JALは従来米国のBoeing(ボーイング)の航空機を採用していたためこれがエアバス航空機の初受注となっている。初号機の引き渡しは2019年を予定しているが、新たに導入に向けた訓練が必要となっている。
航空機に関する訓練状況について、JALエンジニアリングの人財開発部部長の海老名巖氏は「カーボン素材や高度なデジタル技術などにより、航空機の整備士は従来の知識に加えてより多くの知識や技能が必要となっている。一方で、航空機の各種システムの信頼性向上したことで故障修理の機会が減り、保守点検の期間も伸びた。これは経済性としては素晴らしいことだが、整備士の育成には不都合なことだ」と述べる。
この理由として海老名氏は「整備士は飛行機を見て、触れることで、経験を積む。しかし、この機会が減ったことで、技能を向上するのが難しくなっている。さらに、訓練についても航空機の高稼働化で訓練用航空機の確保が難しくなってしまっている。そのため、仮想訓練のアプリケーションは待ち望まれていた」と述べている。
そこでMRを活用した訓練アプリケーションの開発に取り組んだ。JALでは2016年4月にホロレンズを活用したトレーニングツールの活用について発表しているが「その当時は写真を張り合わせてエンジンの3Dモデルなどを作っており、膨大な手間がかかっていた」と海老名氏は述べる。しかし、これらの負担をさまざまな訓練パターンに応じて用意することは難しいと判断し、エアバスとの共同でのプロトタイプ開発にオペレーターとして参加することを決めた。
海老名氏は「2016年の実証から現実的に業務に活用するには、2つの要素が必要だと考えた。1つはリアルな仮想航空機を作るための、航空機の3Dデジタルデータが必要だという点だ。もう1つは、IT技術者がJALやJALエンジニアリングで抱えるのは難しく、これらを代替してくれるところが必要になるという点である。これらの点からエアバスとの共同開発を行った」と述べている。
今回の協業は、エアバスとJALが航空機に関する訓練アプリケーションを共同で開発するというものだ。JAL側は高度な3DデジタルデータやITの開発能力などを生かせる一方で、エアバス側はJALが先行するホロレンズの活用ノウハウなどを得られる利点がある。
エアバスでは、以下のステップでMR活用を進めているというが、JALとのパートナーシップもこのノウハウの吸収を目指したものだ。
エアバス・ジャパン 代表取締役社長のステファン・ジヌー氏は「2013年のJALからのA350ファミリーの受注はエアバスにとっても歴史的なものとなった。ホロレンズは、航空機の運用や訓練、設計や整備など、ビジネス全域に価値をもたらす可能性がある。JALはホロレンズやMRの活用で先行しており、意見を取り込むことで効果的な活用方法を模索していく」と述べている。
開発された訓練アプリケーションのプロトタイプは、パイロットの訓練用のものとドアの開閉オペレーションの2つ。ホロレンズにより、没入感のあるMR環境で、実物大の3DCADデータによる精緻なコックピットやドアの操作を練習できる。また、視線の位置やジェスチャーにより操作を行うことも可能で、訓練ではガイドに合わせて、目視したり、スイッチのオン・オフを行ったりすることが可能だ。
海老名氏は「最終的なシミュレーターによる訓練は変わらないが、そこまでの基礎レベルでのMRの活用の効果は非常に高い。現状では、パイロット候補生は大きな模造紙にコックピットのスイッチなどを手書きで書いて、操作を覚えている。こういう“紙レーター”に比べればMRによる訓練は熟練度を早期に向上でき、大きな効果が期待できる」と述べている。
現状ではプロトタイプとしての開発で、正式リリースについては未定としているが、JALでは「可能であれば早期に導入したい」(海老名氏)と意向を示す。訓練アプリケーションそのものについてはエアバスが展開する計画で、訓練シナリオの開発などをさらに広げる他、「A350」ファミリー以外の航空機にも広げる計画を示している。
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