そこで、点群データ取り込みに対応していて、かつ廉価なHMDの採用を検討し始めた。2014年3月に登場した「Oculus Rift Development Kit 2」(Oculus Rift DK2、開発キット2)、2016年4月発売の「HTC VIVE」を購入し、実際には後者で開発を進めていった。
通常の開発環境のPCは、CPUがインテルの「Core i7 7700K」、16〜32GBのメモリ、GPUがNVIDIA「GeForce GTX 1080 Ti」とかなり高性能なものである。しかし、顧客の現場に持ち込む際はその環境をそのまま持っていくことは現実的ではないため、VRコンテンツの作成の一部に3Dデータを使うなどして、ロースペックなノートPCでもVR閲覧できるように工夫している。
VR用データは事前変換方式で作成し、ゲームエンジン「Unity」を利用している。3D CADデータのVR表示や、カラー点群を処理するためのUnity用プラグインも開発した。「CADデータをUnity用データに直接変換するツールは存在するが、なかなかうまく利用できなかった。VRデータと相性が良いFBXデータを取り込む方式にした」(森部氏)。
システムにはVR空間内での移動、寸法計測、レーザーポインタ(のような機能)、コメント付加、CADモデルの表示といった機能も備えた。また顧客にシステムを提供する際には、備えた機能を全て提供するのではなく、必要な機能だけを選定するようにしているということだ。また顧客の要望も細やかに聞いている。
現在、HTC Vive専用のモーショントラッキングコントローラー「Viveトラッカー」や、パーソナルモーションキャプチャー「PERCEPTION NEURON」を利用できるよう開発を進めているという。
VRの将来性について森部氏は、「VRシステムのケーブルレス化が望ましいが、現状の技術だと遅延が起こりやすい。スタンドアロン型システムはどうしてもスペックが劣る。このような技術課題の解決が望まるものの、それ以上にコンテンツの充実が一番の課題」と話した。「今後、面白いコンテンツが登場し、増えていかなければ、かつての3Dテレビのように衰退してしまうかもしれない」。
VRやMRの活用例としては、新しく施工する工場の外観確認や安全確認、機器の配置検討でのレビュー、危険体験などを挙げた。事例は製鉄関連の設備以外にもある。
事例の1つとして、医療関係の展示デモに協力した例を挙げた。社外イベントにおける手術室の見える化に関する展示で、手術室を実物で再現したエリアのそばに、VR体験コーナーを設置した。このような展示で実物とVR空間を顧客が比較できるようにして、展示側が顧客の反応を見られるようにした。
VR空間では3Dスキャナーで取得した点群データやFBXで取り込んだ3D CADデータで表現した手術室が見られ、かつその中を移動することも可能だ。寸法測定や3Dデータの移動もできる。移動についてはカーソルで移動するのではなく、ワープ式を採用した。ストレスなく見られるように、フレームレート(1秒間に表示する映像のフレーム数)は常に90fps(1秒当たり90フレーム表示)に達しているように制御している。
国内のとある工場設備設計では、設備内の安全柵設置の計画の際にMRによるレビューが使われた。事前に点群データを使ったVRデータで周辺の背景を表現し、安全柵の設置をVR空間内で確認することにより、現場作業での手戻りを極力抑えることが目的だ。安全柵の検討では、VR空間で柵に手を掛ける様子も確認できた。
産業設備設計においては、顧客とはプロジェクトレビューソフトの「Navisworks」や簡易ビュワーの「TruView」も利用しながらレビューとレイアウト検討を繰り返す。設計が進んできた段階でVR空間で確認するという流れになるとのことだ。
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