情報通信研究機構は、ヒトの脳内にもともと存在するα波のリズムを変える技術を開発し、ジター錯視を用いて、α波が視覚的な揺れとして目に見えることを実証した。
情報通信研究機構(NICT)は2017年7月28日、ヒトの脳内にもともと存在するα波のリズムを変える技術を開発したと発表した。ジター錯視を用いて、α波が視覚的な揺れとして目に見えることを示した。NICT脳情報通信融合研究センター 主任研究員の天野薫氏らによるもので、成果は7月27日、米科学誌「Current Biology」電子版に掲載された。
ジター錯視は、赤い正方形の中央に緑の縦棒が配置された図形を黒い背景の上で一定の速さで水平方向に移動させると、実際は揺れていない緑の棒が水平方向に揺れて見えるという現象だ。ジター錯視の揺れをどのくらいの速さで感じるかは個人差がある。
また、α波についての最近の研究では、見ている対象に注意を向ける機能と密接に関係していることなど、視覚情報処理への関与が報告されている。しかし、α波が「原因」として視知覚に関与しているという証拠は明確にされていなかった。
今回同研究グループは、α波がもともと遅い人はジター錯視も遅く、速い人は速く見えることを実証した。また、α波の周波数のわずかな揺らぎに応じて、ジター錯視の見え方も変化することが分かった。
さらに、人体に害のない微弱な電気刺激を被験者の後頭部に与え、α波のリズムを人工的に変調する技術を開発。高周波数(200Hz)の振幅を、被験者固有のα波の周波数よりも1Hz速い(遅い)ターゲット周波数で変化させたところ(AM変調)、このリズムに被験者固有のα波のリズムが誘導され、ターゲット周波数へと変化した。この電気刺激は、高周波数の帯域にしかノイズを発生させないため、α波帯域(8〜13Hz)の脳活動を観測できる。
同技術を用いてα波のリズムを速く(遅く)すると、被験者が感じるジター錯視の揺れも同様に変化した。この結果から、α波の持つリズムがジター錯視の知覚に寄与していること、視覚入力の有無に関係なく、脳内にもともと存在するα波のリズムが視覚的な揺れとして知覚されていることが実証された。
今後同研究グループでは、α波の周波数を変調する技術を応用し、α波の周波数と対応する認知機能について研究を進める。α波のリズムを変えることで、短期記憶などの認知機能の向上につながる可能性があるという。
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