MOMOのコンセプトは、「ロケット界のスーパーカブ」だという。これについて、IST社長の稲川貴大氏は、記者会見で「これまでの宇宙開発ロケットは、最高性能を求めるフェラーリのようなものだった。しかしわれわれはこれをより身近に、一般の人でも使えるものにしたい」と説明した。その象徴が「スーパーカブ」というわけだ。
人類が初めて人工衛星の打ち上げに成功したのは、1957年のことである。それからすでに60年も経過しているにもかかわらず、いまだにロケットはスーパーカブになっていない。その理由は、宇宙開発がずっと国家主導で推進されてきたことと無縁ではない。
しかし、その状況も大きく変わりつつある。すでに米国は、低軌道までは民間に任せ、国はそれ以遠を手掛ける方向に舵を切っている。ベンチャー企業であるSpaceXが開発した「Falcon 9」ロケットは、圧倒的な低価格を武器に、商業衛星打ち上げ市場において大きな存在感を持つまでになった。
ISTがやろうとしているのは、まさにこれと同じ。民間がやることで打ち上げコストを下げ、宇宙に向かうハードルを下げる。ハードルが下がれば、さまざまなプレイヤーが集まり、市場は大きくなる。打ち上げ回数が増えれば、ロケットの量産効果により、コストはさらに下がる。ロケットの低価格化は、このサイクルに最初の回転を与えることができる。
堀江氏は記者会見で、「SpaceXに比べるとわれわれは10年以上遅れている」と現状について認識しつつも、「いったん宇宙に到達できれば、弾みがついて資金も集まり、技術開発は加速する。そのうち追い付けると思っている」と、楽観的な見通しを示した。
「高性能」よりも「低価格」を重視する。その結果、ISTが選んだのは、「なるべく特別なことをやらない」という道だ。
MOMOが作られているのは、北海道の大樹町にある同社の工場。「ロケット」という最先端技術のイメージとはほど遠く、雰囲気はどう見ても普通の町工場である。人によっては、もしかすると「下町ロケット」のような世界を想像するかもしれない。
しかし、彼らが目指すのはそれとは対極にある。なるべく簡単に、安く作れるロケットを実現する。特別な工作機械は使わず、普通の機械で誰でも作れる部品を使う。特別な部品ではなく、秋葉原あたりで普通に買える汎用品を使う。そこに「匠の技」は必要ない。堀江氏は「最低性能があればいい。飛びさえすればそれで十分」と、とことん割り切る。
ただし、「簡単に安く作れるロケット」が、「簡単に安く開発できる」というわけではない。簡単に作るためには設計の工夫が必要だし、特にエンジン開発においては、何度も燃焼実験を行って、試行錯誤を繰り返す必要がある。同社もエンジン開発には苦労し、打ち上げが当初の予定より大幅に遅れてしまった。楽をするための努力は必要なのだ。
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