しかし超小型衛星はこれまで、ずっと大きな問題を抱えていた。それは打ち上げ手段だ。超小型衛星を安く打ち上げられる専用ロケットが無かったため、大型ロケットに“相乗り”するしかなかった。しかし相乗りの場合、現実的なコストにはなるものの、打ち上げ時期や投入軌道は主衛星に合わせるしかなく、自分では選べない。
もし小型で安価なロケットがあれば、相乗りではなく主衛星としての搭載が可能になる。時期も軌道も自由に選べるようになる。これは超小型衛星にとって、非常に魅力的な条件である。相乗りの場合、主衛星の都合で打ち上げが大幅に遅れることが良くあるのだが、これはビジネスとして考えれば、大きすぎるリスクといえる。
この拡大する市場を狙い、超小型衛星用のロケットを開発しているのはISTだけではない。世界で最先端を走っているとみられるのは、米国に拠点を置くRocket Labだ。
Rocket Labはニュージーランドに射場を構え、2017年5月、衛星の軌道投入に使える2段式ロケット「Electron」の試験打ち上げを実施した。何らかの問題が発生し、周回軌道には到達しなかったようだが、初打ち上げのロケットでかなり成功に近いところまで行けたのは、驚く他ない。
ちなみにRocket Labは、月面レース「Google Lunar XPRIZE」に参加しているMoon Expressチームと打ち上げ契約を締結しており、期限となる2017年末までにローバーを月に向けて打ち上げるとしている。さすがにそれはむちゃすぎるだろう……と思わなくもないが、そのくらい今のRocket Labにはイケイケドンドンな勢いがある。
ISTは超小型衛星用ロケットの開発に2016年より着手しており、2020年ころの初打ち上げを目指すという。だがRocket Labの実績が増えれば増えるほど、市場に食い込むのは厳しくなってくる。ISTとしては、今回の打ち上げを確実に成功させ、今後の開発に弾みをつけたいところだ。
将来、ISTが企業として成功するのかどうかは、正直筆者には分からない。世界的な衛星需要が予想通りに拡大しなければ、ビジネスが頓挫する可能性もあるだろう。しかし挑戦しなければ、少なくとも成功する可能性はゼロだ。これだけは断言できる。彼らは実際に挑戦を始めた。まずは、今回の打ち上げに注目してみよう。
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