続いてJoby Aviation 航空エンジニアのアーサー・デュボア氏が登壇した。米国人は1年間のうち9.4日を渋滞に費やしている。もちろん渋滞は米国だけに限らない。2030年には多くのメガシティーが登場し、都市化に関する問題が大きくなる。「地下にトンネルを張り巡らせればという意見もあるが、当社は屋上で垂直離着陸できるエアクラフトを提案する」(デュボア氏)。
同社ではできるだけ効率的に設計を進めるため、ダッソーの3Dエクスペリエンス・プラットフォームを活用している。設計者、解析者などさまざまな立場の人が同じインタフェースでデータベースにアクセスでき、コラボレーション、コミュニケーションやプロジェクト管理の点からメリットが多いという。またFAA(米国連邦航空局)など規制当局に解析データなどを含めた全てのプロセスの記録を提出しなければならない。そのデータが一括管理されており素早く利用できる点もメリットだという。
名古屋市立大学病院 医療デザイン研究センター 教授の國本桂史氏は医療設計について発表した。「今の医療は1つの器官にフォーカスしている。人体は全体で一体となっているもの。医療設計を生み出すカギは全体の理解にある」(國本氏)。
例えば喉頭鏡のデザインはずっと変わっていなかった。これをCATIAクラウドを使い、手の形を考えてデザインし直し、異なる立場の人たちと共有、検討した。3Dプリンタでモデルを出力し、医師に使用してもらった。施術者の必要な力が従来の20%に減少したという。
ネブライザ(薬品を霧状にして気管支へ届ける器具)の設計ではCATIAクラウドとともにCFDを利用した。CTデータを基にした肺の3Dモデルの中で、霧になった薬の動きをCFDで把握し、副作用も考慮して最適な最小量を決定したという。
同日に各ブランド担当者による記者会見が開催された。3ブランド共通の課題としては、データのデジタル化およびその連携が中心だという認識が示された。
SIMULIAにおける課題は「長年にわたって最もニーズの高いマルチフィジクスの問題をどう解決するか。現在のところ、取り組みは個別の領域内にとどまっている」(SIMULIA CEOのスコット・バーキー氏)。
BIOVIAにおいては「デジタル化とR&Dから製造までの連続性が課題。まだいかにスケーリングし、量産するかというニーズに応えるには至っていない」(BIOVIA 最高戦略責任者のレザー・サーデギー氏)。
GEOVIAは天然資源産業を中心に、建設業界でも使用されている。「両者の共通課題としては、さまざまな分野と仕事を進めていて、刻一刻と変わる現場の対応も必要。複雑な運用への対処が一番の課題」(GEOVIA CEOのラウル・ジャカンド氏)。
3ブランド全体の課題として、「科学とビジネスをつなげるにあたっては科学が社会にどういうインパクトを与えるか考えなければならない。科学の枠内で検討することは容易だが、例えば船の設計であれば、以前の設計を参考にして重量を減らし、またマーケットを考慮してといったビジネスセンスも必要だ。こういったビジネスセンスを科学をやっている人にどうやってもたらすかが重要。そのためにはデータを一方向に流すだけでなく、リンクさせてコラボレーションすることが必要」(ブランド&経営企画担当 エグゼクティブ・バイス・プレジデントのパスカル・ダロー氏)。
ダッソー・システムズはそのためのプラットフォームとなる3Dエクスペリエンス・プラットフォームへの移行を目指しているが「特に大手航空機メーカーなど大企業は一夜にして移行できるわけではない。そのためスタートアップから導入してもらうのがいいと思っている。例えば自動運転車を開発するウェイモのようなベンチャーが使用している」(ダロー氏)。「大企業はどこかの時点で、従来の考え方を改め、古いシステムを根本的に見直さなければならない。CATIAにしてもSIMULIAにしても全体的に考え方を変える必要がある。スタートアップであってもそういった考え方は難しいかもしれないが、大企業のようなレガシーがないぶん取り組みやすい」(バーキー氏)。
その中でエンジニアの役割はアーキテクト的になるとダロー氏はいう。「最終的にエンジニアは体験を届ける役割を担う。シミュレーションに投資してきたのはこのためだ。知識はコミュニティー内に分断して存在しており、それをつなげることが重要になる」(ダロー氏)。
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