“エクスペリエンスを買う”時代のマーケットプレース、第1弾は「3Dプリンティング」CADニュース

CAD/PLMベンダーのダッソーは、同社の製品設計・開発における統合プラットフォーム「3Dエクスペリエンス プラットフォーム(3D Experience Platform)」でマーケットプレースを提供する予定。まずは3Dプリンティングのサービスを開始する。

» 2017年06月14日 10時00分 公開
[小林由美MONOist]

 フランスDassault Systemes(以下、ダッソー)の日本法人ダッソー・システムズは2017年6月6〜7日の2日間、都内でユーザーイベント「3DEXPERIENCE FORUM JAPAN 2017」を開催した。同イベント初日である6日、ダッソーの社長兼最高経営責任者(CEO)であるベルナール・シャーレス氏が記者発表会で登壇し、同社ビジネス概況と今後の戦略について語った。

ダッソー 社長兼最高経営責任者(CEO)であるベルナール・シャーレス氏

 2016年度の業績については、「新規ライセンスの伸びが高水準」であったとした。特に自動車・輸送関連が売り上げをけん引し、現在もなお伸び続けているという。地域別の業績では、欧州とアジアでの販売が「堅調に推移」しているとした。北中米と南米については大きな伸びはなかったようだが、「間接販売チャネルがけん引した」と説明した。

 中国やインド、東南アジアや南米諸国、アフリカ、欧州の一部といった、同社における「成長国」の市場については、売り上げ全体のうち最大17%を占めているといい、各国の製造業における技術が高度化してきていることを示した。また先進国といわれる国々がかつてたどった技術発展とは異なり、「(社会が発展中である国内で)固定電話のインフラの整備を飛び越して携帯電話が普及するような例があるが、成長国における設計開発の3Dデータ技術普及においても同様な道のりを歩んでいる」とシャーレス氏は説明した。

 エリクソンやサムスン電子といったハイテク産業、商用と軍用における船舶・海洋関連、水力・発電や原子力、石油・ガスといったエネルギー・プロセス産業などの(ダッソーにおける)「新規産業」でのソフトウェア収入も伸びているとシャーレス氏は言う。中でも中国で顕著に伸びたのが船舶・海洋であるという。日本と中国では、家電分野において同社製品の採用を獲得したとのことだ。

 それら新規産業での活用も視野に入れて、ダッソーは今後、「SIMULIA」「Abaqus」といった同社の非線形シミュレーションの領域により力を入れていくとしている。同社は2017年6月2日に、電通国際情報サービス(ISID)と流体解析ソフトウェア「XFlow」に関して戦略的アライアンス契約を締結したと発表している。XFlowは、流体を仮想的な粒子の動きとして扱って解析する手法「格子ボルツマン法」による流体解析ソフトウェアである。ISIDは2013年から同ソフトウェアを扱ってきたが、今回のアライアンスにより国内における販売とサービス提供に積極的に取り組むという。

“エクスペリエンスを買う”時代に向けて

 シャーレス氏は「1970〜1980年代にかけて、デジタル化とともに『インダストリー4.0』(デジタル化による産業の革命)は既に始まっていた」と語り、航空機「ボーイング777」開発におけるCATIAを用いたデジタル試作(DMU)の例(1989年)を挙げた。「インダストリー4.0が示すのは自動化のことだけではない。IoTなどの技術ありきで語られることが多いが、その中心にいるのはあくまで人と知識・ノウハウである」(シャーレス氏)。既に始まっていたインダストリー4.0の先に、同社の製品設計・開発における統合プラットフォームである「3DEXPERIENCE」(3Dエクスペリエンス)がいると同氏は説明する。「働く人たちの知識や能力を『3Dエクスペリエンス』によって引き上げる」(シャーレス氏)。

 同社の「3Dエクスペリエンス プラットフォーム(3D Experience Platform)」は、3Dデータを核にして、製品の設計開発から生産、販売、マーケティングなど、製造業の一連のビジネスを1プラットフォームにまとめる統合システムである。ダッソーのエグゼクティブ・バイス・プレジデント 最高戦略責任者を務めるモニカ・メンギニ氏は、今後、それがGoogleやAmazonの仕組みのように、さまざまな企業による製品やサービスをWeb上にあるプラットフォームに取りまとめて販売するような、ビジネスプラットフォームとして進化していく方針を明かした。

ダッソー エグゼクティブ・バイス・プレジデント 最高戦略責任者 モニカ・メンギニ氏

 「(アクセンチュアの調査によれば)2020年までには世界経済の25%がデジタル化し、(ガートナーの調査によれば)企業の75%がデジタルについて調査および試行をしている。世の中がデジタル化していく中、製品を核とするビジネスから、プラットフォームを軸とするビジネスへ変遷してきている。製品の購買のみではなく、エクスペリエンス(例えば製品を使用することで生み出されるサービスやソリューションなど)の購買もGDPを高める時代であると考える」とメンギニ氏は説明し、ダッソーもその流れに合ったシステムを提供していくとした。

 その1つの取り組みとして3Dエクスペリエンス プラットフォームにおける「マーケットプレース機能」の提供を挙げた。マーケットプレース上に、さまざまな企業を参画させ、3Dエクスペリエンス プラットフォーム内のユーザーはマーケットプレース経由で、各企業が提供するサービスが利用可能になるというもの。その第1弾として3Dプリンティングの加工依頼サービスを2017年9月に開始する予定だ。ただし、日本はスタート時に対象に含まれていない。3Dエクスペリエンスのサービスに3Dデータをアップロードすることで利用できるサービスを考えているという。なおダッソー製品以外の3Dデータにも対応し、今後は材料や手法の選定で人工知能(AI)を活用したり、3軸加工など他の加工法にも対応したいとしている。なお、参画企業や具体的な仕組みについては明かさなかった。

 マーケットプレースについて、将来のビジョンとしては、「例えば、ユーザーが持っている携帯端末が壊れたら、その写真をマーケットプレースにアップロードすると、対応可能な企業やユーザーが修理のために設計したり、修理した端末を届けてくれるようなサービス」をイメージしているとシャーレス氏は言う。また、マーケットプレースで提供するサービスは「あくまで設計製造関連」と同氏は説明し、物販やデータ販売までは想定していないということだ。

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