大阪大学は、増殖能を失うとされていた哺乳類成体の心筋細胞について、心筋炎が自然治癒する過程で心筋細胞が増殖することを明らかにした。このメカニズムをさらに検討すれば、心筋細胞を人為的に増殖させる技術開発につながるという。
大阪大学は2017年5月3日、増殖能を失うとされていた哺乳類成体の心筋細胞について、心筋炎が自然治癒する過程で心筋細胞が増殖することを明らかにした。同大学 大学院 薬学研究科 教授の藤尾慈氏らの研究グループによるもので、成果は同日、英科学誌「Scientific Reports」で公開された。
同研究では、ヒトの場合と同様に、炎症によって一過性に心筋傷害が生じるものの、その後、自然治癒するという性質を持つマウスの自己免疫性心筋炎モデルを利用。心臓が炎症から回復する過程の心筋細胞の性質を解析した。
まず、炎症からの回復期にさまざまな細胞周期マーカーを解析し、心筋組織内に細胞周期が回転している心筋細胞が出現することを明らかにした。新生児マウスの心筋細胞の多くは単核細胞で増殖能を持つが、生後分裂能を失うに伴い、単核細胞の頻度が急激に低下する。このことから、心筋炎前後の心筋細胞の核の数をカウントし、結果、心筋炎後に単核心筋細胞の割合が増加することを発見した。
次に、もともと存在している心筋細胞に目印をつけ、その後の経過を追跡。増殖している細胞の多くはもともと心筋細胞として存在していたものであり、炎症の回復期におとなのマウスでも増殖する心筋細胞があることを発見した。
さらに、心筋炎モデルで、シグナル伝達分子であるSTAT3が心筋細胞で活性化されていることを明らかにした。このSTAT3遺伝子を心筋細胞特異的に欠損させると心筋細胞の増殖が低下し、心筋組織の再生/修復が不十分になり、心臓の機能が低下した。
今後、心筋炎の心筋細胞が増殖するメカニズムをさらに検討すれば、心筋細胞を人為的に増殖させる技術を開発できる可能性がある。現在開発中の心臓再生治療とは別の心不全治療戦略につながることが期待される。
これまで哺乳類の心筋細胞は、生直後に増殖能を失うものとされており、哺乳類成体の心筋細胞の増殖が傷害を受けた心臓の再生/修復に寄与することはないと考えられていた。同研究グループは、ウイルス性心筋炎を発症した患者の多くで心臓の機能が自発的に回復することに着目し、哺乳類成体の心臓にも何らかの再生/修復能があるのではないかと考えた。
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