これまでは人の思うように操れるのが最高のクルマだったが、今後はいかに安全に賢く走るかという新たな価値が加わる――。トヨタ自動車 専務役員の伊勢清貴氏が、自動運転の実現に向けた取り組みを振り返った。
日本経済をけん引する自動車産業。その自動車産業で現在注目を浴びている技術の1つが自動運転だ。
2017年4月19〜21日に開催された民生機器、産業機器の要素技術の展示会「TECHNO-FRONTIER 2017」(日本能率協会主催、幕張メッセ)の基調講演に、トヨタ自動車 専務役員の伊勢清貴氏が登壇。交通事故の軽減と予防安全技術の向上を実現する手段として期待が集まる自動運転技術の動向と自社の取り組みを紹介した。
130年の自動車の歴史の中で、自動運転は古くから存在する。1939年のニューヨークの博覧会でGeneral Motors(GM)がオートマチックラジオコントロールにより自動的に車間距離を取り安全に走行するという概念を紹介した。
一般的に自動運転技術は1970年代から研究が始まったといわれている。現在の自動運転のブームのきっかけとなったのは、2004年のロボットカーによるレース「DARPAグランドチャレンジ」だ。「これをきっかけに自動運転を行う基本的な技術が一気に向上した」(伊勢氏)という。
トヨタ自動車では交通事故の軽減と予防安全技術の向上を実現する手段として、1990年から自動運転の技術研究をスタートした。当時の技術的課題は、交通環境や天候などのさまざまな条件下でも自動運転を実現するための、信頼性の高いセンシング技術や認識技術が確立されていなかったことだ。
その中で、まずは「IMTS(Intelligent Multimode Transit System)」の技術開発を進めた。IMTSは専用道路では無人運転で複数台が隊列走行し、一般道では手動運転に切り替えて走行できる大型バスだ。2005年には「愛・地球博」で一般の来場者向けにIMTSの運行を実施した。
現在の自動運転システムがIMTSなどと大きく異なるところは「周辺環境認識技術」だという。IMTSは自動運転中、専用道に埋設された磁気マーカーに沿って操舵し、加減速とブレーキは車車間通信や地上信号装置などを基に制御する。現在、開発が進められている自動運転システムは、高度なセンシング技術と人工知能を用いて、複雑な環境下における全ての障害物を識別することで実現する。
伊勢氏は「このところ自動運転への関心は過熱気味だと思えるが、それだけ社会からの期待が高いということの現れ」とする。特に事故を回避する技術や、高齢者の移動を支援するシステム、トラックやバスのドライバー不足を補うことなどに特に注目が集まっている。
自動運転技術は将来の自動車産業の発展にも大きくかかわってくる。高度なセンサーやカメラ、レーダー、通信機器の需要は高まり、それによる関連産業の市場拡大に貢献するものと経済的にも期待される。
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