作業研究に欠かせない「標準時間」はなぜ生まれたのかよくわかる「標準時間」のはなし(1)(2/3 ページ)

» 2017年04月26日 11時00分 公開

2.1 テイラーの「シャベルすくいの実験」に学ぶ

 テイラーの科学的管理法の代表的実験に、鉄鉱石、石灰や灰などの運搬作業で、シャベルですくう量をいくらにすれば、一日にすくう量が最大になるかを研究した「シャベルすくいの実験」があります。

 テイラーは、正しい作業計画を立案するために作業者の中から実験するための作業者を選んで、時間研究を開始した結果、シャベル作業では1人当たりの1日の作業量は59トンであると算出することができました。算出されたその標準作業量と比較するために、実績作業量を調べてみると、約4分の1の17トンにしかすぎないことが分かりました。驚いたテイラーは、その差の実態を調べることにしました。

 そのことについて作業者と話し合った結果、シャベルの種類が少なくて、それぞれの作業に適したシャベルが使えないという意見が多く出てきました。製鉄所には、鉄鉱石や鉄くず、石炭やコークス、石灰石、砂や砂利など、シャベルですくう物がいろいろあり、当然のことながら大きさや形、重さなども異なっています。そのように違う材料を1つのシャベルを使って作業していたのでは、軽い材料では力が余り、重い材料では力負けして疲労の源泉となるなど、作業者達が何かと我慢していたことが分かりました。

 そこでテイラーは、「ひとすくいの重さに適切な重さがある」と考え、関心の高い作業者の人たちと一緒にいろいろと実験を重ねながら研究を続けました。以下の考えられる全ての要因について調査した結果、シャベルでのひとすくいの量9.5kgが最も疲労が少なく、最大の作業量(生産性)が得られるとの結論に達しました。

  • シャベルの柄の太さ、長さ、持ち方
  • シャベルを差し込むときの角度、力
  • シャベルですくい取った物を投げ出す距離や高さ
  • 床の材質や状況による影響

 重い物には小型シャベル、軽い物には大型シャベルを使うと効果的であることなどが分かりました。次に、シャベルですくって投げるまでの距離と高さの関係を調べながら作業時間を測定し、そして作業方法についても的確な手順を作業者全員に教育し、一日に終わらせなくてはならない作業量も示しました。今まで、シャベルの使い方について作業指導されることもなく、全員が自分勝手なやり方で毎日の作業を行ってきた作業者にとっては、まさに驚くべき出来事でした。

 ただ、研究結果では高い生産性が得られたにかかわらず、生産計画を立てる人がそのことを知らず、以前と同じように大ざっぱで場当たり的な感覚で作業計画を立案しているという問題がありました。つまり、作業計画の不備から作業者は仕事が終わりそうなのに次の仕事が決まらないので、ゆっくりと作業を引き延ばしてしまうという事態と併せて、一方では人手が足りず、仕事が遅れるといった現象が発生していました。これらの問題点も、研究結果に基づいた科学的な生産計画の立案ですぐに解決することができました。

 これらの結果、作業者は朝出勤すると、その日に作業する作業指示書に従ってシャベルを選び、それぞれの職場へと向かって行くようになりました。その職場には、十分に訓練された指導者がいて、今までの悪いクセを直したり、シャベルの正しい使い方や休憩の取り方についても親しく指導したり、援助する役割を果たしてくれるよう配置しました。その結果、間もなく全員が生産高4倍の59トンを達成し、収入も以前の1.7倍もの金額を手にすることとなりました。

 テイラーは、作業の能率を上げるためには、以下の項目を工場管理に活用すべきであると提唱しています。当時の熟練者への依存、慢性的な怠業、非科学的な管理に対して鋭いメスを入れたことは間違いなく、「科学的管理の4原則」の展開により数々の功績を残しました。また、技術的、経済的に進歩を遂げた今日でも科学的な観察は、生産(経営)管理を発展させる中心となる重要な部分に影響をもたらしたといっても過言ではありません。

科学的管理の4原則

  • 作業の各要素について科学的に分析し、仕事を最も能率的に遂行できる最善の方法を考案する
  • 作業者は考案された通りのやり方で仕事を遂行するよう教育しなければならない。作業者それぞれが、どの仕事に適しているかを見つけて、一流になるまで訓練するのは管理者の役割である
  • 管理者は仕事を達成するために、作業者と協力しなければならない
  • 管理者の責任は計画立案と監督に携わり、作業者はそれを遂行する

管理4原則による主な功績

  • 時間研究や動作研究の手法を確立
  • 出来高払いの改善、スタッフ組織や原価計算制度の確立
  • 設備や工具、材料の標準化の推進
  • 設備や治工具の保全方法の確立

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