標準時間は、作業者の働きを管理するものと誤解している人も少なくありません。また、一般的に作業者の多くは、そのような感じ方をしている人が多いものです。では、なぜそのような誤解を生んでしまうのでしょうか。
標準時間を決定するためには、専門的ないろいろな手法が使われますし、少なくない人手を費やすことになります。広義にとらえた標準時間の設定プロセスは、現状分析、測定、作業改善、手順の標準化、そして標準時間の設定というような順で行います。このため標準時間の設定という仕事は、どうしてもある程度の専門知識を教育するか、あるいはそれらを身につけた人が専門的に携わっていくことになります。このように多大な工数をかけて設定した標準時間ですから、その時点では現場の実情に合った正確な資料であったはずです。しかしながら、1〜2年もたつと標準時間の見直しを行わなければならなくなるのはナゼなのでしょうか。
管理する側の人のほとんどは、「標準時間は、作業者の能率を監視するためのツールである」と思っています。一方、作業者の人たちの多くは、「俺たちは標準時間によって監視されている」と感じています。
現場を管理する立場の人は、標準時間設定の目的を正しく理解しています。しかし、そうした頭の中の理解と、管理者が現実に行っている現場管理の行動との間にはかなりの差があり、現実は作業者の能率を管理することにとりわけ熱心で、それ以外の管理には余り関心を持っていないことが多いものです。そこで、現場管理における主として現場諸管理のツールとなる標準時間の設定目的を挙げると以下の通りとなります。
生産行動が効率よく行われているかどうかを日々把握して、その結果に基づいて必要なアクションを採っていくのが現場管理の中心的業務です。前述したように現場を的確に管理するためには目標値が必要なわけですが、この目標は標準時間という尺度を基礎にして算出された目標値であるべきなのです。ところが多くの実情は、作業者の能率管理の基準として標準時間を使うことに熱心で、その他の項目については余り注意が払われていないことが多くあります。しかも、現場の作業方法は改善などによって変化していくのに、標準時間はというと、改善内容に応じて細かなメンテナンスがなされていません。
そのような現場の実態と標準時間との間に生じた差異を、作業者は誰よりも速く知ることになります。しかしこの差異は、いつまでたっても訂正されることなく、ますますその差が大きく広がっていくことになります。そのような状態にもかかわらず、現場の管理監督者は、そのような状態の標準時間を使って作業能率の管理をやることになるので、標準時間に対する作業者からの信頼は、徐々に薄らいでいくという一途をたどることになります。
明らかにおかしな実態です。本来の目的と現実の間に食い違いは多いものですが、これでは作業者が「標準時間は、監視するためのものだ!」と感じるのは、無理からぬことだといえます。現場の管理監督者や標準時間の設定・管理に携わる生産(製造)技術屋さん達は、これを運用管理する側に立つ者として、この点は十分に反省しなければならないことだと思っています。
標準時間をいつも正しい状態に保っていくことは、優しいことではありません。現場は生きています。日々変化していく現場の姿は、進歩向上している証でもあります。これとは逆に、変化のないまま長く安定した現場は、ある意味では進歩から取り残された姿ともいえます。このことからも、作業上の変化は、大いにあった方が良いのです。
ところが、変化に即応して標準時間の基準を正しくメンテナンスをおこない生産過程の管理に齟齬(そご)をきたさないようにするためには、現場の第一線を預かる現場の管理監督者の理解と努力が欠かせません。このことが機能していない限り、多大の工数をかけて決めた標準時間でも、1〜2年もたたないうちに全く役にたたない、陳腐化した尺度となってしまうものです。何年かごとに、会社の関係者を動員して標準時間基準資料の見直しが繰り返されるのは、そのような体制の不備に原因があるのは明らかです。
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標準時間について、歴史的背景なども含めてみてきました。テイラーが研究開発した技術は、現在でも生産現場で十分に役立つものです。テイラーは、作業能率向上のための工場管理項目として以下を挙げています。
MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)
日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、および日本IE協会、神奈川県産業技術交流協会、県内外の企業において管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。
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