企業を超えたエンジニアたちの共同研究も、このからくり展で見つけることができた。
例えばトヨタグループの企業を中心に、個々の企業を超えてエンジニアが共同でからくりの研究を行う「からくり改善機構研究会 夢道力」は「発想の可視化」と題して、まるで“ピタゴラスイッチ”かと思わせんばかりのからくりを展示していた。これはからくりを通すだけで、円柱状の部品が規格内の重量に収まっているか判断してくれるものだったが、その判断の仕方がさまざまなからくりで段階を経ているものであるのが、面白かった。
このように今後の生産技術、生産の効率化を狙ってからくりの研究をしているグループもいて、企業を超えたエンジニア同士のさながら自由研究として参加している姿を見れたことも収穫だった。
これはからくりが実際の現場で役立つもの、というだけでなく、あらゆる製品作りのヒントにつながる実験でもあることを意味している。柔軟な発想はモノづくりの基礎体力を高めるようなトレーニングでもあるのだ。
当の本人たちは職場の労働環境改善や、ポカミスを防ぎ、ケガのないようにするために、作業の内容を工夫しているだけ、ということもあるかもしれない。しかし、そこには与えられた仕事に満足するのではなく、常によりよい仕事を求めるエンジニアとしての欲求が根底にある。こうした活動自体が仕事のモチベーションを高め、アイデアを蓄積することにつながるのでは、と感じた。
海外拠点からの参加も、興味深かった。トヨタ自動車の豪州での生産と販売を担うTMCA(Toyota Motor Corporation Australia)もエキゾーストシステムの運搬を傾斜を使ったレールで無人化することにより、作業者の歩行を省くだけでなく、ケガを回避し、疲労も軽減できるからくりを展示していた。
説明していたのは日本語がNGの作業員だったが、この日のためにせりふとして日本語を覚えてきたそうだ。それだけに説明は、普通に日本語を話せる外国人という感じだった。実は、2017年にTMCAでの車両の組み立てとエンジンの生産が中止されることが決まっている。そんな工場のスタッフがこのからくり展に参加したのも、自分たちの仕事を誇りに思い、工場の存在や技術を知らしめたいという思いが込められている。
日本の工業製品の優秀さ、モノづくりの素晴らしさを製品の仕上がりや製法から判断することは多い。だが製品という結果だけでなく、こうした仕事に対する姿勢からも、日本のモノづくりの強さは見えてきた。
労働力不足が深刻化していく中では、外国人労働者やロボットに頼るだけでなく、生産の効率化を高めていくからくりが、今後の日本の生産力をますます支えていくことになるのでは、と思わされるほど、可能性を秘めたものであることを実感させられたのだ。
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