ロボットを導入するのは難しいが、手作業では効率化や安全性に課題がある……生産ラインのそんな困りごとを解決するのが「からくり」だ。動力に頼らず、ワークの自重やシンプルな動きを利用することで、安全に効率を高められる。知恵と発想がつまったからくりの数々を紹介する。
「からくり改善くふう展2016」(2016年9月29〜30日、パシフィコ横浜。以下からくり展)を見に行ってきた。きっかけは以前取材したある工場だ。工場内の「からくり」に感心していると、からくりを集めた展示会が開催されることを教えてくれた。
ただ、会場が毎年転々としていることもあってなかなか見に行ける機会がなかった(愛知県名古屋市と首都圏で隔年開催。2017年は名古屋で実施予定)。今回は横浜ということで、筆者にとっては都合が良い開催場所となった。
からくり展における「からくり」とは、基本的にはワークの自重や従来ある動きを利用して、人間の作業を減らしたり効率を高めるものだ。動力を使用するものもあるが、ロボットと手作業の間を補う、エコで安全性と効率を高める仕掛けといえるものが、からくりなのである。
からくり展に出展した企業以外にも全国にはたくさんのからくりを生み出している工場があるのだろう。しかし、からくり展を見る限り、参加するうちの7〜8割は自動車関連企業の工場のブースといった印象だ。これはやはり自動車が日本の基幹産業であり原動力であることを再認識させてくれる。
しかし、実際に工場で使っているからくりを取り外して持ってくることなどできないから、今回の展示のために縮小したスケールモデルをわざわざ製作しているところも多い。そうした作業は就業時間外に行われているであろうから、このからくり展に向けての準備にかなりの労力が注ぎ込まれていることは容易に想像できる。
幾つかのからくりを詳しく取材して気が付かされたのは、どのからくりも説明員の解説が実に丁寧で熱心なことだ。それは会期中のコンテストを意識したものというより、自分たちの改善の成果を知ってもらいたいという意欲からの行動からのようで、そんな姿勢からも自分たちの仕事への取り組みに対する熱意は伝わってきた。
工場内のからくりは、組み立てや部品の加工など生産に直接関わるものだけでなく、運搬や保管、梱包などの作業を効率化するものまで、活躍する分野は実に幅広い。今回は生産の効率化を直接実現できるからくりを重点的に見て回ったが、それでもとても全てを見て回ることはできなかった。しかしながら、ユニークで生産効率の高いからくりを幾つも見つけられることができた。
「気遣い無用 ゆらリング」は、通常は専用の機械により自動化されているクランクシャフトへのリングギアの取り付け作業が、機械のメンテナンス時などに手作業で行う必要があるため開発したもの。焼きばめ(加熱することで小さい穴に軸をはめ込む手法)のため、従来は180℃まで加熱したリングギアを大きなペンチでつかみ、クランクシャフトのジャーナル部に引っかけないように慎重に通していく必要があった。なおかつ時間をかけすぎてしまうとギアが冷えて、クランクに入らなくなってしまう。
「ゆらリング」を使うと、“電流イライラ棒”をほうふつさせるような作業で、溝に沿ってハンドルを下げていくだけで、クランクシャフトにリングギアを取り付けることができるため、作業者が火傷をしたり部品をキズ付けたりするリスクなく、熟練者の半分の時間で作業を完了することができるそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.