東北大学は、エナメル質を形成するマスター遺伝子の同定と機能解析に成功し、どのように歯のエナメルが作られ、歯の形を制御しているのかを解明した。今後、次世代の虫歯治療や歯の再生への応用が期待される成果だ。
東北大学は2016年11月7日、エナメル質を形成するマスター遺伝子の同定と機能解析に成功し、どのように歯のエナメルが作られ、歯の形を制御しているのかを明らかにした。同大学歯学研究科の中村卓史准教授、福本敏教授らと、米国国立衛生研究所との共同研究によるもので、成果は同年10月27日に米科学誌「Journal of Bone and Mineral Research」の電子版に掲載された。
歯のエナメル質を形成したり、歯冠や歯根の形を制御したりするのが歯原性上皮細胞だ。同研究グループは、歯の発生や形の制御に関わる分子の役割を解明する過程で、この歯原性上皮細胞に発現しているエピプロフィン(転写因子の1つ)が、エナメル質や歯の形態を形成する際にどのような役割があるかを調べた。
同研究ではまず、全身の上皮細胞にエピプロフィンが発現するよう遺伝子操作したマウス(K5-Epfnマウス)を作製した。そのマウスの歯を解析したところ、野生型(通常のマウス)の切歯では、唇側だけがエナメル質でカバーされているのに対し、K5-Epfnマウスでは、唇側だけでなく舌側にも白いエナメル質が形成されていることが明らかとなった。
舌側の上皮において、野生型ではエナメル質を形成しない歯原性上皮細胞(ode)が観察される。odeは歯原性上皮細胞でありながら、通常はエピプロフィンが発現していない。しかしK5-Epfnマウスでは、ode細胞にもエピプロフィンを強制的に発現させているため、ode細胞がエナメル芽細胞(ab)に異所性に分化し、エナメル質を形成していることが分かった。また、K5-Epfnマウスの臼歯は、歯のかみ合わせの咬頭や歯根などにも異常が認められた。
エピプロフィンは、歯の発生初期においては歯原性上皮細胞に発現し、増殖因子FGF9やSHHの発現を誘導することで、歯原性間葉細胞の増殖を促進させていた。また、後期には歯冠や歯根の形態形成を制御し、象牙質形成にも関与していることが示された。
そこで、歯原性上皮細胞にエピプロフィンを強制発現させることにより、エナメル芽細胞を異所性に誘導し、エナメル質を形成することに成功した。今後は、この成果を発展させることで、人工的なエナメル質の再生や、歯冠や歯根の形の制御を可能にする技術を開発していく。さらには、次世代の虫歯治療や歯の再生への応用も期待される。
エナメル質を作る歯原性上皮細胞はエナメル芽細胞と呼ばれ、歯が完成してしまうとなくなってしまう。そのため、虫歯などによってエナメル質がいったん破壊されてしまうと再生させることはできない。現状では金属やレジンなどによる修復しかできず、エナメル質を作るエナメル芽細胞の培養や、その分化制御法の開発が望まれていた。
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