同社 Senior Director SiCのPeter Friedrichs氏は、「自動車でSiCが最も効果を発揮するのは、走行距離の長さに重点を置いたハイエンドの電気自動車だろう。街乗り主体の電気自動車や、プラグインハイブリッド車はバッテリー容量が小さいため、SiCを採用するうまみが少ない」と車載用途での需要を分析する。
走行距離の長い電気自動車では、バッテリーがコストに直結するため、SiCパワー半導体を採用することによるメリットが大きいという。インバータの性能向上により、バッテリー搭載量の低減や、高電圧化、充電時間の短縮に貢献できるためだ。
一方で、「街乗り主体の電気自動車ではパワーが、プラグインハイブリッド車ではCO2の排出量がコストの鍵を握るので、SiCパワー半導体の採用によるインバータのコスト増がまだ見合わない」(Friedrichs氏)という。
SiCパワー半導体そのもののコストダウンに加え、リチウムイオン電池の価格動向、各国のCO2排出規制によっては長距離を走行する電気自動車同様に、採用のメリットが出てくるとしている。
SiCパワー半導体を採用したインバータのコストと、バッテリーのコストを比較し、自動車メーカーにとって利益が出始める損益分岐点は、「バッテリー容量が60kWh弱」(同氏)になるという。
バッテリー容量が大きい電気自動車の代表はTesla Motors(テスラ)の「モデルS」だ。モデルSは、バッテリー容量60kWhと85kWhの2つが用意されている。走行距離は60kWhモデルが230マイル(約370km)、85kWhモデルが300マイル(約482km)となっている。
一方、日産自動車の電気自動車「リーフ」はバッテリー容量を24kWhと30kWhの2種類をそろえている。走行距離は30kWhで280kmだ。リーフクラスのバッテリー容量の電気自動車では、当面はSiCパワー半導体を採用するメリットは薄いといえる。
同氏は「今後、テスラのように走行距離を重視した電気自動車は増えていく」と見込む。しかし、「ではいつSiCパワー半導体が採用されるかというと、明確なところは見えていない。技術としては車載用途に対応できるものが確立している。順調に見積もった予測をいえば、産業用途から1〜2年遅れで車載用をサンプル出荷できるとよいのだが」(インフィニオン テクノロジーズ ジャパン オートモーティブ事業本部 部長の杵築弘隆氏)。
車載用途を前提とし、コストと性能を両立するパッケージングも開発を進めている。具体的には、SiCパワー半導体のチップの面積を必要最小限に抑えてコスト低減を図りながらモジュールの両面から冷却するというものだ。SiCの熱抵抗を抑え、電流密度を改善するメリットがあるという。
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