―― 空気清浄機って、日本独自の文化の中から出てきた商品ですよね。世界では需要があるんでしょうか?
冨田 確かにわれわれの商品は日本市場が大きいんですね。ですから日本向けに開発した商品、それを海外にグローバル展開していくという取り組みをずっとしてきました。ですが今回の「蚊取空清」は、ASEAN向けに開発した商品なんです。それをグローバルに展開していくという、初めての試みになります。シャープ全体としても海外向け商品が逆流してきた流れは珍しいですね。
―― 東南アジアは暑い国が多いので、基本的に窓が開けっ放しじゃないかと思うんですよね。そういう国でもニーズはあるんでしょうか。
冨田 ニーズは、今まさに作っているところですね。私が7年前に最初にこの仕事に携わった時に、ASEANの責任者に言われたのは、空気清浄機の需要が非常に小さいと。空気をきれいにするのももちろんいいんだけど、一番困っているのは蚊なんだと。蚊の取れる空気清浄機を作ってくれたら絶対売れる、ということを言われて、開発をスタートしたのが7年前なんです。
―― じゃあもうかなり最初から、蚊を取るというコンセプトがはっきりあったんですか。でも蚊を取るのであれば、蚊取り線香をはじめ、さまざまな殺虫用品が既にあると思うんですが……。
冨田 最初はそういうのも考えたんです。某メーカーさんの最新の薬剤を使った蚊取り商品を組み合わせて、空気もきれいにするし蚊も殺せないかということで取り組んだんですが、結果的にうまくいかなかったんですね。
当時最新の蚊取り商品は、遠心力を使って薬剤を飛ばして漂わせる、というものでした。だから熱も使わないので、安全だと。蚊というのは飛翔能力が弱いので、上の方を飛んでてもすぐ下の方に降りてくるんです。降りてくると薬剤の濃度が高いので、弱って死ぬという製品なんですね。
ところがわれわれの製品は、空気を背面に吐き出して部屋中をグルグル巡回させてますから、薬剤が拡散してしまって効果が出ない。蚊が死なないといわれて。
―― あっ、そうか。そりゃそうですよね。しかも薬剤を吸い込んで空気をきれいにしてしまうんじゃ……。
冨田 実はイオン発生機で、後々そこに蚊取り装置が入るという商品を作ったこともあります。結局蚊取り機能を搭載せずに、入れる部分だけがついた商品を発売することに……。そんな失敗がいろいろありました。
こちらはマレーシアのスーパーの写真ですけど、蚊の対策グッズって非常に多いんです。蚊の殺虫剤も、日本の倍以上のサイズです。このサイズの殺虫スプレーを、2日ぐらいで使っちゃう。
向こうの人って、バーッと部屋中にスプレーをまいてからしばらくおいて、時間がたったら換気するんですよ。しかも現地には網戸というものがないんです。換気するとまた入ってくるだろうと思うんですけど、それを繰り返してるんです。
―― それじゃあ部屋の中が殺虫剤でベトベトになりませんかね。そうじゃない蚊取りの方法が求められていると。
冨田 そこから4年ぐらいいろいろ試行錯誤を繰り返してたときに、技術者がこんなアイデアどうですかと持ってきたんですね。発想を変えて、いっそ空気清浄機の気流で吸い込んだらいいんじゃないかと。蚊を近くまでおびき寄せることができたら、あとは吸い込むだけ。空気清浄機の吸引力を利用しながら薬剤も使わない、非常にいいじゃないかということで、この商品の原型ができたわけです。
実際に現地の話を聞いてみると、80%以上の人が殺虫の薬剤って体に良くないよねと思っている。それもあって、薬剤を使わないのがいいと、現地の人たちも非常に乗ってきた。
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