では、この先、パワードスーツには具体的にどういう可能性が考えられるだろうか。確かにライブパフォーマンス分野でのビジネス化もその可能性を広げているが、それ以上に、誰にでも1つの選択肢として、パワードスーツを“そばにある技術”とするためには、「人と二足歩行ロボット」のように、「人とパワードスーツ」の関係をとらえ直す必要があるのかもしれない。
白久氏 例えば1体のパワードスーツに100Wのモーターを10個使ったとしましょう。すると、全体で1KWになります。パワードスーツ全身を動かすことによって1KWを操ることができる。一方で、ブルドーザーはものによっては100KWもの出力を持ちます。パワードスーツ100台分です。それをブルドーザーは全身の動きではなくて、足先数センチの運動で100KWを操ることができる。
これは、インタフェースの違いです。ブルドーザーというのは、何十年以上の歴史がある重機です。車体があって大きなエンジンが搭載されていて、椅子の上に人が乗っている。ちょっと足を踏んだけで100KWの力を駆使できる。それはもうゆるぎのない事実です。いくら、ものすごくパワードスーツを作ってそれを100台集めても、ブルドーザー1台にかなうかどうか怪しい。
ならばパワードスーツが全く使えないかというと、そうではない。きっとブルドーザーにはできない何かがあるはずです。それを探しています。ブルドーザーが入りきらないような場所で何かできるのかもしれないですし。何か使い方を考えなければいけないです。単純な問題ではないです。単純に、モーターをつければ何でもかんでもできるということではないので。
ただ、新しい技術(未知の技術というより、技術を突き詰めることで形になった新しい製品・分野)をどう広めていくか、どうやってビジネスにしていくかは非常に難しい。
手段先行で「何か」を探し出すと、どこかで壁にぶつかってしまう。介護の現場であれば、2人がかりでやるべき作業なのか、1人でパワードスーツを付けてやるべきなのか、クレーンのような動力を使ってやるべきなのか、複数の選択肢がある中で、ここではこれが最適なのでこれを使いましょうというように、解決したい課題がある中でそれに対していろいろな手段の1つとしてあるべきだ。そうでなければ、結局、使われずに終わってしまう。
しかし一方で、もしかしたら手段ありきで成り立つ分野があるのであれば、そこに投入することで一気に広がる可能性があるのも確かだ。具体的にはライブパフォーマンス、スポーツなどの分野だ。
次のプロジェクトはまだ具体的には決まっていないが、「パワードスーツの無限大の可能性に挑戦していく」という。
白久氏 最初のスケルトニクスは、リンク機構というバックグラウンドからノリで作りました。以降のスケルトニクスはライブパフォーマンス分野で収益を出す特殊スーツとして改良して、生まれたスーツです。エグゾネクスというのは、まさに人が想像するようなアイアンマン、そういったものに対して、真摯に取り組んだプロジェクトで、スケルトニクスとは全く逆の方向で研究されたスーツです。
その両極端を体験することによって、いままで見えてこなかった矛盾だったり、逆にぽっかり空いた穴、特異点だったりといったものが見え始めています。次に目指すものが、単にその2つの融合なのか、それともまったく離れた2つを作ることによって見えてきた中間地点なのかは分かりません、そういったものにチャレンジしていくと思います。
最後に、機械と人の未来について、どうとらえているか聞いてみた。
白久氏 いろいろな考え方があると思います。映画「ターミネーター」のように機械が人を襲ってくるという話もあれば、最近では、機械が人の仕事を奪うんじゃないかという議論もあります。
弊社はパワードスーツの会社なので、どういう形で機械をとらえているかというと、やはり道具。いい意味で機械を道具としてとらえていきたいと思っています。ツールの1つとして必要なときに使っていく、使いたいときに使う。使わないで済むときは使わないという距離感です。これが二足歩行ロボットを作っている会社だと、もしかしたら「友達」となるかもしれませんが。
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