震災から1年――。今なお予断を許さない東京電力・福島第一原子力発電所の事故。この過酷な現場に投入されたのが、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)が開発したレスキューロボット「原発対応版Quince(クインス)」だ。本稿では、開発責任者でfuRo副所長を務める小柳栄次氏に、これまでの開発について、そして今後のレスキューロボットについて話を聞いた。
2011年3月11日に発生した東日本大震災から、間もなく1年がたとうとしている。地震と津波による甚大な被害はまだ記憶に新しいが、それに追い打ちを掛けるように起きたのが東京電力・福島第一原子力発電所の事故だ。12月に冷温停止宣言が出され、一時の危機的な状況は脱したとはいえ、建屋内の高い放射線量は変わらず、廃炉に向けた作業には困難が予想される。
この現場で活躍しているのが、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)が開発したレスキューロボット「原発対応版Quince(クインス)」だ。2011年6月に1号機が投入され、2012年2月20日には、2号機と3号機が福島に向けて出発し、原子炉建屋内の調査に貢献している。
今回、これまでのQuinceの開発について、そして今後のレスキューロボットについて、開発責任者でfuRo副所長を務める小柳栄次氏に話を聞いた。
まずはQuinceについて説明が必要だろう。
原発対応版Quinceのベースとなっている「Quince」は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで開発されたレスキューロボット。車体の全面がクローラで覆われており、その前後には足のようなサブクローラも搭載する。地下やビル内での事故を想定したロボットで、階段や瓦礫(がれき)での高い走行性能を持つのが特長だ。NEDOのプロジェクトでは計7台が製造され、4台は千葉工業大学、3台は東北大学が保有している。
原発対応版Quinceは、このQuinceの車体をベースに、大幅な改良を施したもの。Quinceはもともと原発事故は想定しておらず、必要なセンサーが用意されていなかったため、線量計などを追加した。また、建屋の内部は分厚いコンクリートで無線が使えないため、通信を有線に変更し、ケーブルの巻き取り装置も開発して搭載した。なお、放射線対策は取られていないが、実験の結果、特に何もしなくても、十分な時間稼働できることが分かった。
こうした改造により、重量はノーマルのQuinceに比べて倍近くに増加。重心も高くなっているため、階段を上る能力は少し低下したものの、それでも傾きが40度以上ある原子炉建屋の階段を上るだけの能力は確保されている。
1号機は、2011年6月に投入された。当初のミッションだった水位計の設置と汚染水のサンプリングは、地下への階段が事前の話よりも狭くて失敗したものの、その後ターゲットを上層階に変え、同年10月20日には、2号建屋の5階まで行き、放射線量の測定と燃料プール付近の撮影に成功した。帰還途中にケーブルが切れてしまい、報道では「失敗」の面ばかりが強調されていたように思うが、実はその前に大きな成果を上げていたのだ。
現在、1号機は2号建屋の3階に放置されたままだが、小柳副所長によれば、当面はそのままにしておいて、1年後くらいに回収したいという。強い放射線を1年間浴び続けたロボットがどうなるのか。もしかしたら動くのか? そんな実験データはほとんどなく、この影響を詳細に調べれば、今後の原発ロボットの開発にも役立つ。「転んでもただでは起きない」のが小柳流だ。
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