スケルトニクス 白久レイエス樹氏に聞く、パワードスーツの現在と未来ロボットキーマンを訪ねて(2/6 ページ)

» 2016年03月11日 07時00分 公開
[大内孝子MONOist]

 具体的な仕事のオファーもあったというが、彼らが向かったのは次のプロジェクトだ。それが「エグゾネクス」、スケルトニクスとは全く別の方向性のロボットである。スケルトニクスがその動力源に人体の力のみを使うのに対し、何らかのアクチュエータを使って、スケルトニクスにはできない力強い動きができる、重力級のパワードスーツを作ろうと考えたのだ。

 その資金を集めるためにどうするか? 寄付や、既に登場していたクラウドファンディングサービスで賛同者を集めて、という方法も考えたというが、最終的に、会社にして過去に作った作品(スケルトニクス)を使ってライブパフォーマンス分野でビジネスをすることを決意する。

 実は、これがスケルトニクスの進化にもつながっている。

 スケルトニクスでビジネスをしようと考えたときに、彼らは介護や重作業用ではなく、ライブパフォーマンスを軸にすることに決める。そもそも介護や重作業用に作るとなると研究開発に10年かかるという世界であることは分かっていた。すぐに収益化したかったから、ライブパフォーマンス分野だったのだ。

白久氏 とはいえ、まだ性能不足でした。動画では格好良く動いていますが、その裏では大変なことが起きていて。装着に3人がかり、人がまず椅子に座って、分解して着させる。10分がかりの作業です。そうやって装着しても動ける時間が5分だけでした。

 5分間だけというのは装着者の体力的な問題だった。1号機は全体の重さが30kg、上半身と下半身が別になっているため、上半身の15kgを背負う形になる。また、足先の起動を1.5倍に拡大しているので、逆に、膝には1.5倍の負担がかかることになる。上半身で15kgを背負い、下半身は1.5倍体重が増えた感覚だ。これではライブパフォーマンス分野で使うにしても厳しい。

スケルトニクス1号機 スケルトニクス1号機。上半身と下半身は別になっているので装着者は15kgの重量を背負っての動作を余儀なくされる

 ライブパフォーマンス分野では、具体的には着ぐるみのパフォーマンスが競合となる。そこでビジネスを成り立たせるために、せめて30分程度は動けるよう、また、装着もすばやくできるように改良を進めていく。

 現在の5号機では、上半身と下半身、背骨をつなげることで、上半身の負担をうまく地面に逃しているという。さらに、下半身の拡大という概念をもう少し簡略化して、膝への負担が少なくなるような構造を採用している。

スケルトニクス5号機 スケルトニクス5号機は上半身と下半身をつなぐ他、下半身の簡素化することで、装着者の負担を減らしている

白久氏 この2つの大きな改良によって、装着して動ける時間が約1時間と飛躍的に延び、現場で使えるレベルまで性能を上げることができました。ドバイ首長国のオフィスで使われたり、ハウステンボスや紅白の舞台で使われたり、とても1号機ではこなせなかっただろうことが、後のスケルトニクスではできています。しっかりライブパフォーマンス分野での収益も出ています。

 実際、5号機に関しては上半身だけであれば体験できるようになっている(CEATEC JAPAN 2015の会場でも行われていた)。ただ、人体への負担は少なくなっているが、スケルトニクスで歩くのは自分の足で歩くのとは違うので、練習が必要だという。

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