ヒトとの相乗効果はロボットを新しい次元に引き上げる、MMSE金岡氏に聞く搭乗型巨大ロボットの作り方(前編)インタビュー(1/2 ページ)

テレビ「リアルロボットバトル」やニコニコ超会議に登場した、ロボット「MMSEBattroid」を開発したのが、マンマシンシナジーエフェクタズの金岡克弥氏だ。ヒトの動きがロボットの動きになる――ヒトとロボットの相乗効果の実装を狙う、金岡氏に話を聞いた。

» 2015年06月05日 07時00分 公開
[大塚実MONOist]

 2014年12月にテレビ放映された「ロボット日本一決定戦!リアルロボットバトル2014」において、惜しくも優勝機に敗れたものの、高いポテンシャルを見せつけた「MMSEBattroid ver.0」。放送を見た人なら、1回戦で「ふなっしーロボ」をボコボコにしたロボット、と言えば思い出すだろうか。

 MMSEBattroidのコンセプトは“人馬一体”ならぬ“人機一体”。バイラテラル(双方向)のマスタースレーブ制御とヘッドマウントディスプレイ「Oculus Rift」により、ロボットをまるで自分の分身のように操縦できるのが大きな特徴である。

photo 「リアルロボットバトル2014」に登場した「MMSEBattroid ver.0」(画像提供:日本テレビ放送網)

 ロボットにはさまざまな操縦方式がある。ゲーム機のようなコントローラーを使って、各ボタンに動作シーケンスを割り当てるのも1つの方法だ。一方、マスタースレーブ方式では、ロボット(=スレーブ)と同じ関節構造(※)を持ったコントローラー(=マスター)を使用。操縦者の動きをコントローラーのセンサーが計測し、同じようにロボットを動かす。非常に汎用性が高い操縦方法だといえるだろう。

photo 手前がロボット(「MMSEBattroid ver.0」)で、後ろに見えるのがその操縦装置。ほぼ同じ関節構造であることが見て取れる

(※ ロボット工学でいう「同構造マスタースレーブシステム」の場合。MMSEBattroidにおいては、リアルロボットバトル時の ver.0 ではスレーブと同構造のマスターであったが、ニコニコ超会議2015時の ver.0.1 では「異構造マスタースレーブシステム」を採用。スレーブの構造に依存しない汎用6軸マスターによって、より直感的な操作ができるようになった)

 バイラテラルのマスタースレーブではスレーブ側からのフィードバックがあるので、例えばスレーブロボットの腕が障害物に当たったとき、マスター側はそれ以上動かなくなり、操縦者はそこに物体があることを反力で感じることができる。それに対し、ユニラテラル(一方向)だと障害物で腕が止まってもマスター側は構わず動いてしまうので、スレーブ側と動きが一致しない。

 このMMSEBattroidを開発し、リアルロボットバトルでは自ら操縦していたのが、立命館大学チェアプロフェッサーでマンマシンシナジーエフェクタズ 代表取締役社長の金岡克弥氏だ。今回は金岡氏にリアルロボットバトル出場のいきさつ、ロボット開発の苦労話、今後のビジョンなどについて伺った。

ロボットの応用は第一次、第二産業に大きな可能性

――まずは社名にもなっている「Man-Machine Synergy Effector(MMSE)」とは何か、簡単に説明をお願いします。

金岡氏: ロボットには、自分で考えて動く自律型と、人間が動かす操縦型がありますが、現時点ではどちらも十分ではないと考えています。自律制御はまだ完全ではなく、できないことがたくさんあります。かといって人間の操縦に全てを任せると人間の能力に制約されてしまう。現状では、お互いの優れたところを高め合い、劣ったところを補い合うようなシステムが必要です。そのコンセプトの総称として、人間機械相乗効果器=MMSEという言葉を作りました。

photo 立命館大学チェアプロフェッサー マンマシンシナジーエフェクタズ 代表取締役社長 金岡克弥氏

 類似の概念として、スーパーバイザリコントロール(管理制御)がありますが、MMSEは、人間の操作を主として自律制御を従としている点、あるいは異常時の監督・切替ではなく人間の力学的な操作入力と機械の自律制御入力の重畳(重ね合わせ)による相乗効果の常時発揮を目指している点、でスーパーバイザリコントロールとは異なるものです。

――MMSEの応用分野としては、どのあたりを想定しているのでしょうか。

金岡氏: 自律型のロボットであれば、自律機能が完全になるまで実用化は待たなければなりませんが、MMSEであれば、人間が最終的な責任を負うことで、比較的早期の実用化が期待できます。現在、人間が行っているフィジカルな作業において、いわゆる3K(きつい、危険、汚い)労働をはじめとしたほぼ全ての領域で活躍できます。これだけロボット技術が進歩しているのに、いまだに生身の人間が、劣悪な作業環境で健康を擦り減らしながら、夜中に道路工事をしたり、産廃を処理したり、原発の中に入ったりしている。いくらでも使う場所はあります。

 その一方で、喋って踊って「人を癒す」だけの、フィジカルな機能をほとんど持たないロボットが注目されている。いびつだと思いませんか。第三次産業(サービス業)へのロボット応用も、ビジネスとしては否定しません。しかし、工学の立場からロボットの本質に目を向けるならば、第一次産業と第二次産業にこそ、高度なロボット技術を導入して行くべきです。市場が無いなんてとんでもない。農林水産・土木建築・物流運搬・防災復興の全分野において、生身の人間が肉体労働している作業全てが、潜在市場です。

 ただし、人が肉体労働することを前提として組み上げられてきた既存のスキームはそのままに、一部だけをロボット化してコストを削減できますか、というような、ありがちな話になってしまうと厳しい。そうではなくて、スキーム自体を一気に変える必要があります。人間と機械の相乗効果を最大限に発揮させることを目指して、ゼロベースでスキームを組み直せば、新しい形が見えてきます。

 漁業を例として具体的に考えてみましょう。漁師さんが肉体労働することを暗黙の前提として作られている漁船に、漁師の代わりとなる漁師ロボットを乗せて網を引かせるというのは陳腐な未来図です。それはMMSEではありません。

 MMSEのコンセプトにのっとれば、人間と、魚を捕るデバイスである漁船自体とが「人機一体」となって相乗効果を発揮します。ロボット化した漁船と、操作者としての人間を、われわれのバイラテラルマスタースレーブをはじめとするインタフェース技術でつなぎ、各種の機械化漁具を備えたロボット漁船を自分の外部身体として直感的に操り、漁をするのです。

 MMSEBattroidを自分の分身として操ったように、「Oculus Rift」でロボットの視覚を自らの視覚としたように、魚群探知機の視覚を自らの視覚とし、自らの腕を振るうように機械化された網を打ち、魚を捕えた重みをマスタースレーブ越しに肌で感じる。

 人間に必要とされるのは体力ではなく、漁師としての専門知識と熟練技能のみ。そしてロボット漁船の方は、人型である必要もなく、かといって既存の船の形にこだわることもなく、人間との相乗効果を最大限に発揮して漁ができる形にデザインする。MMSEとはこういうことです。これで、漁業そのものが変わるでしょう。そうやって、人間の重労働や苦役を無くしていきたいと思っています。

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