――大学発ベンチャーを起業していることからも、実用化を強く意識していることが分かりますが、ビジネスとしての状況はどうでしょうか。
金岡氏: MMSEBattroidはある意味、私の会社の製品といえるのですが、会社としてMMSEBattroidを販売して利益を上げることは考えていません。語弊があるかもしれませんが、私の会社は短期的なビジネスを目的としていません。研究に止まりがちなロボット工学技術を世に出し、ビジネスのフィールドそのものを変革するための1つの“ツール”なのです。
技術の実用化にはお金がかかります。研究者という立場を越えて、お金を集めるために投資を受け、開発をマネジメントする企業体が必要だから起業したと理解してもらえれば。これまで数百万〜数千万円規模のご支援を頂き、MMSEBattroidまでの試作機を開発できたのですが、本気で社会実装しようと思えば、もう1〜2桁上の資金が必要になるでしょう。これまでの成果をベースに会社に注力して、MMSEの社会実装を実現しうるリソースを調達したいと考えています。
そもそも、大学での研究者という立場も、私にとってはツールの1つです。自分がやろうとしていることが、まだ世の中で実現されていない。既存の技術で実現できるならそれを使えばいいのですが、実現のための技術が存在していないのなら、自分で研究して、その必要な技術を開発するしかない。研究という行為は、私にとっては目的ではなく、純粋に手段です。必要な技術が全て揃ったら、もう研究はしないと思います。
だから私は、自分のことを研究者とも経営者とも思っていません。あえて言うなら発明家でしょうか。でも、日本語の「発明家」という単語には、英語の「inventor」と違って、若干“イタい”イメージを感じるので、あまり言わないですけどね。
――先生の目標はバトルロボットを作ることでは無いと思うのですが、なぜリアルロボットバトルに出場したのでしょうか。
金岡氏: 私は基本的に「来るもの拒まず」なのですが、このオファーを受けるとなると、かなりの負担になることが明らかに予想されるので、さすがにためらいました。テレビ番組ですから、エンターテイメントとしての配慮も必要ですし、撮影があるので期限も厳守です。製作費は補助してもらえましたが、MMSEのコンセプトを実装するには十分とはいえない額でしたので、自腹を切る覚悟も必要でした。
ただ、テレビで大勢の人に見てもらって、現在のロボット工学で何ができるのかを知ってもらえるのであれば、長い目で見ると、きっと私たちのプラスになる。そう思って、多少無理をしてでも出場しようと決めました。
――あの規模のロボットを開発したのは初めてですよね。苦労はありましたか。
金岡氏: 苦労した点は主に2つあります。1つは時間です。オファーがあったのは2014年の4月で、撮影は同年11月と決まっていました。でも、最初の5カ月間は資金集めやメンバー選定、システムのコンセプト立案や基本設計、メカの基本的なフレームワーク設計など、開発前段階の基礎を構築するのに費やされ、ロボットを製作する時間は実質2カ月間しか残されていませんでした。
この超短期開発においては、数年前から研究室の標準システムとして採用しているナショナルインスツルメンツの「LabVIEW」と「CompactRIO」が大いに役に立ちました。MMSEBattroidには、多数のセンサーやモーターがつながっていて、インタフェースが複雑です。最近のセンサーやモーターはデジタル化していて、それぞれにプロトコルがあるため、独立して管理しないといけません。
LabVIEWならGUIベースで、そうしたインタフェースを簡単に構築することができます。これが無ければ、2カ月での開発は無理でした。もちろん、超短期開発ができた最大の立役者は、徹夜も厭わず、無償で開発に協力してくれた「人機一体・金岡博士チーム」のメンバーなのは言うまでもありませんが。
もう1つ大きな課題だったのが、操縦の無線化です。それまでは、マスターもスレーブも同じ場所で動かしていたので、両方を1台のコンピュータで有線制御していました。ところが、MMSEBattroidでは、それぞれにコンピュータを乗せて、スレーブ側を無線化する必要がある。どうすれば短期間で高性能な無線システムを開発できるのか、かなり悩みました。
マスタースレーブだと、マスター側とスレーブ側でロボットが2台あるのですから、扱うインタフェースの数が2倍に増える。しかもバイラテラル制御なので、それぞれで動く制御ソフトウェアがリアルタイムに情報を交換して、完全に同期しなければならない。今までの開発手法だと非常に煩雑になるのですが、LabVIEWに備えられた基本機能を用いることで、システムを比較的簡潔にすることができました。
(後編に続く)
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