なぜロボットにクラウドが必要なのか?クラウド×ロボットの現在(1)(1/3 ページ)

クラウドを活用してロボットの開発や運用、管理を行うクラウドロボティクス。連載第1回ではAWSのシニアアーキテクトがクラウドロボティクスの現状やAWS RoboMakerの紹介を行う。

» 2020年05月27日 08時00分 公開

 2018年、ソニーが開発した犬型ペットロボット「aibo」は大きな話題を呼びました。aiboは専用のクラウドサーバに接続して日々の活動を記憶し、成長し、個性を持つロボットです。この事例に見られるように、コンシューマー向けのロボット領域ではロボティクスにおけるクラウドの活用が広がってきています。

ソニーが開発した犬型ペットロボット「aibo」[クリックして拡大]出典:ソニー ソニーが開発した犬型ペットロボット「aibo」[クリックして拡大]出典:ソニー

 複雑な演算や大量のデータ処理をロボット本体ではなくクラウド上で行うことでロボットのCPU周りの部品価格を下げる効果が期待できる他、クラウド経由でのソフトウェアアップデートを可能にすることで、メンテナンスにかかる費用や手間を抑えてコスト効率を最適化することが可能です。実際に(ロボットではありませんが)スマートスピーカーがユーザーにとって比較的安価に購入できるのは、音声認識、意図解釈、音声合成などをクラウド上で行うことで、デバイス側の処理負荷を大きく抑えているからに他なりません。この他にも、ロボットから収集した情報をクラウドに集約して、匿名化したうえで機械学習の学習データに活用するといった応用的な活用方法も考えられるでしょう。

 私はアマゾン ウェブ サービス(AWS)ジャパンでシニア・ソリューション・アーキテクトとして「AWS RoboMaker」というサービスを担当しており、これまでクラウドを活用したロボティクスに取り組まれているさまざまな方にお会いしてきました。こうした経験を基に、本連載では国内のロボティクス活用におけるクラウド活用の現状と課題を紹介させていただきたいと思います。「クラウドとロボット」という観点でロボット開発に取り組む現場の生の声として読み進めていただけますと幸いです。

現場での本格的な運用はこれから、研究開発は各社積極的に推進中

 クラウド技術をロボティクスに応用するというアイデアはそれほど新しいわけではありません。個人的な肌感覚としては、国内でも2013年ごろには「クラウド×ロボティクス」という概念が語られるようになっていたように思います。2014年にソフトバンクが発表したPepperでも、クラウド化を前面に押し出したロボットではないものの、各所にクラウド技術が使われています。

 ちなみに、そもそもPepperはソフトバンク傘下のロボット開発企業であるフランスのアルデバランロボティクスが有するテクノロジーをベースに開発されたのですが、アルデバランロボティクスは当時、ロボットアプリケーションをクラウドのアプリストア経由で配布する仕組みなど、多くのクラウドを活用した仕組みをすでに実現していました。一方で同時期に、国内のロボット開発企業ではクラウドと連携したロボット製品は登場しておらず、クラウドロボティクスの初期事例は海外のほうが少し先行していたように記憶しています。

 クラウドロボティクスで提唱されるクラウドの可能性は幅広く、ロボットの認知と判断をクラウド上で行うといったロボットの稼働に関する用途から、開発コードなどをクラウド上でオープンソースという形で共有することで開発効率をあげるといった開発者向けの用途まで多岐にわたります。

 また、産業への応用という点でいうと、例えば製造現場では産業ロボットをクラウド上で一元管理するというスマートファクトリーの構想の中で、物流現場ではWMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)などと連携する形での活用などが期待されています。が、ここで挙げたような産業用途への応用は、まだ初期段階にとどまっているというのが個人的な印象です。

 応用が進まない事情はさまざまですが、大きな理由として、現行の手法を変えて取り組むほどのメリットをクラウドロボティクスにまだ見いだせていない一方、多くのケースにおいてセキュリティを含むプロセス全体の見直しが必要である、ということがあるようです。

 例えば製造業では、データをインターネット回線に流すことに懸念を持つ企業もいます。また、製造ラインへの産業用ロボットの配置は製造プロセスの一部であり、製造プロセス全体を俯瞰した設計と評価が必要不可欠となります。これには広範囲の専門性が要求されますので、導入に難色を示すというケースもあります。物流現場にロボットを導入する場合には、倉庫そのものの設計を見直さなければならないことも多くあります。しかし、現状を維持するべきか見直すべきか、また見直すとしてどのように設計し直すべきかなど、数多くの選択肢から何が最適かを判断できず、静観している企業も多いようです。

 このように実運用の現場を見てみると本格的なロボットのクラウド利用はまだまだこれからのように思われます。一方で研究開発のレベルでは、さまざまな企業が将来的な自社利用を想定したクラウドロボティクスの研究に積極的に取り組み始めているという現状もあります。開発後に当面は自社工場だけでの展開を考えている企業もいれば、自社向けに開発を進めるものの将来の外販を見据えている企業もいます。実運用には慎重である一方で、研究開発の領域ではクラウドや最先端のロボティクスに積極的に取り組んでいて、社内で実証実験の場を設けている企業もあり、こうした現場レベルと研究レベルの温度感の違いは面白く感じます。

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