「自動運転のための自動運転は無意味」、国内5社の車両開発責任者が激論オートモーティブワールド2016 特別講演レポート(1/5 ページ)

「オートモーティブワールド2016」の特別講演に、トヨタ「レクサスGS F」、日産「エクストレイル」、ホンダ「S660」、マツダ「ロードスター」、三菱自動車「ランサーエボリューション」の車両開発責任者が登壇。自動運転についての考え方や、運転の楽しさと電子制御の関わり、若手エンジニアに向けた仕事の取り組み方について意見を交わした。

» 2016年01月21日 11時00分 公開
[日沼諭史MONOist]
国内自動車メーカー5社の車両開発責任者によるパネルディスカッションに聴講者が多数集まった 国内自動車メーカー5社の車両開発責任者によるパネルディスカッションに聴講者が多数集まった

 東京ビッグサイトで、2016年1月13〜15日に開催された次世代自動車技術の展示会「オートモーティブワールド2016」。同展示会の専門技術セミナーで、トヨタ自動車「レクサスGS F」、日産自動車「エクストレイル」、ホンダ「S660」、マツダ「ロードスター」、三菱自動車「ランサーエボリューション」という高い評価を得ている車両の開発に携わった技術者らによる特別講演が1月14日に行われた。

 5人の技術者はパネルディスカッション形式で、自動運転についての考え方や、運転の楽しさと電子制御の関わり、若手エンジニアに向けた仕事の取り組み方について意見を交わした。本稿ではその様子をレポートする。

「お客さまにとっての喜びが何かを忘れてはいけない」

 世界中で進む自動運転技術の開発競争。自動車メーカーのみならず、テクノロジー企業であるGoogle(グーグル)も実験車両を走行させ、「Macintosh」や「iPhone」で知られるApple(アップル)までもが自動運転の研究をスタートさせているといううわさすらある。Tesla Motors(テスラ)の電気自動車は、ソフトウェアアップデートでオートパイロット機能を追加し、高速道路上での自動運転実用化に向けた第一歩を踏み出している。

 その流れに一歩遅れるような形になってしまったが、国内自動車メーカーも自動運転の実現を目標とした動きを加速させ始めた。

トヨタ自動車の矢口幸彦氏。2000年よりレクサスのブランド企画を担当する中でレクサススポーツ「Fブランド」を提案。2003年より「IS F」「RC F」「GS F」の車両開発責任者を務める トヨタ自動車の矢口幸彦氏。2000年よりレクサスのブランド企画を担当する中でレクサススポーツ「Fブランド」を提案。2003年より「IS F」「RC F」「GS F」の車両開発責任者を務める

 トヨタ自動車はシリコンバレーに開発拠点を設置し、人工知能技術をもつベンチャー企業Preferred Networksとの提携を発表したばかり。ホンダや日産自動車は公道上での実証実験をスタートさせ、将来的な自動運転の実現にめどをつけつつある。

 それ以前に、他の国内自動車メーカーを含め、自動運転技術にもつながる多数の運転支援技術は市販車両に既に搭載されており、海外だけでなく日本においても近い将来の完全自動運転の導入はもはや既定路線のようにも見える。

 ところが、講演でパネリストとして参加したトヨタ自動車 Lexus International 製品企画 主査の矢口幸彦氏は「自動運転という言葉が一人歩きしているのが非常に心配」と、昨今の自動運転ブームに懸念を抱いている。

 例えばさまざまな車両が混在して走行する高速道路において全ての車両が安全に高速移動できるようにするなど「目的をはっきりさせて自動運転を実現するのは非常に意味がある」が、「自動運転のために自動運転があるわけではない」と語る。

マツダの山本修弘氏。1995年より「ロードスター」開発担当、2007年よりロードスター開発担当主査として従事 マツダの山本修弘氏。1995年より「ロードスター」開発担当、2007年よりロードスター開発担当主査として従事

 マツダ 商品本部 主査の山本修弘氏も「(自動運転を)やることが目的になってしまってはいけない」とトヨタ自動車の矢口氏に同調する。

 間違いを起こしてしまう人間をサポート/アシストし、渋滞の解消や高齢者に対する支援を目的とするなど「何のためにやるのか、どういうシチュエーションで利用させるのかを考えるのが大事」(山本氏)と話し、スイッチで自動運転をオン/オフできるようにする方向性もあるだろうとの見方も示した。

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