また、渦の発生は圧力の変化を伴うため、渦の発生により音を発生させます。これが「エオルス音」と呼ばれる現象で、電線が風によりうなり音を生じるのはこのためです。渦の発生周期が構造物の共振周波数と一致して、構造物を破壊させることもあります。1940年にアメリカで発生したタコマナローズ橋の崩落事故は、横風により発生したカルマン渦と橋の共振周波数が重なったことが原因とされています(関連リンク:タコマナローズ橋(ウィキペディア))。
比較的最近の例では、高速増殖炉もんじゅにおいて、配管内温度計のさや管後方に発生したカルマン渦により、さや管が振動し、疲労破壊からナトリウム漏れに至った事故があります(関連リンク:高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏えい事故(電気事業連合会))。
もし、カルマン渦の発生周期が計算で求められれば、設計段階でこうした事故を未然に防ぐことができそうです。実は、計算することが可能で、下記の「ストローハル数」と呼ばれる無次元数を用います。
ストローハル数Stは下記の式で定義される無次元数で、空気ではおおむね0.2になります。
ここで、fはカルマン渦の発生周期[Hz]、Dは代表長さ[m]、Uは主流の流速[m/s]です。空気のストローハル数は0.2として、カルマン渦の発生周期は下記の式で求められます。
今回のシミュレーション条件から、カルマン渦の発生周期を計算し、画像ファイルから同じパターンとなる周期を読み取り、比較してみます。今回のシミュレーション条件では流速が5m/sで、円柱の直径は35mmです(解析領域の長さが0.5mで、境界条件を示すbc.bmpの横幅は128ピクセルで、円柱の直径は9ピクセルから0.5*9/128=0.035m)。以上を(2)式に代入すると、f=28Hzとなり、1/28=35msごとに同じ状態となることが分かります。一方、figsフォルダ内の画像を比較すると、9700サイクルと10000サイクルとがほぼ同じ状態となっていることが分かります。画像の右下にt=〜として、実際の時間が表示されているので、10000サイクルと9700サイクルの時間差を計算すると、30msと、(2)式で計算した結果とほぼ一致することが分かります。このように、カルマン渦の発生周期を求めることは設計以外にも、シミュレーション結果をより良く表すために、出力タイミングを適切に設定する際にも必要となります(関連リンク:ストローハル数(ウィキペディア))。
では、円柱の形状を変化させたら、カルマン渦の発生状況がどのように変わるか、Flowsquareでシミュレートしてみます。円柱に後方に向けて「ひれ」を付けた形状で解析した結果を用意しましたので、karman_2.zipをダウンロードして展開してください。
Flowsquareを起動し、Karman_2を解析モードで開くと、シミュレーション結果が見られます。円柱周りの流れと同じ出力タイミングの画像を図3と図4に示します。
対応する図1、図2と比べると、渦の発生位置は、より後方で狭い幅になっていることが分かります。
前述のように、渦の放出により円柱は反作用を受けるため、ひれ付円柱では、渦から受ける反作用は小さく、かつ変動も小さいことが分かります(以下の動画)。
次回は、境界条件の設定方法について説明します。また、解析事例として、翼周りの流れをシミュレートし、揚力の発生する仕組みを見てみます。
伊藤孝宏(いとう・たかひろ)
1960年生。小型モーターメーカーのエンジニア。博士(工学)。専門は流体工学、音・振動工学。現在は、LabVIEWを使って、音不良の計測・診断ソフト、特性自動検査装置などの開発を行っている。
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