「SKYACTIVエンジン」は電気自動車と同等のCO2排出量を目指すマツダ 人見光夫氏 SKYACTIVエンジン講演全再録(5/7 ページ)

» 2015年12月09日 09時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

過給ダウンサイジングは本当にエコなのか

 不正を働いた会社が真っ先にやり始めたそうだが、過給ダウンサイジングが主流になっている。エンジンを小さくし、出力性能が落ちるのを過給で補うものだ。小さい排気量で抵抗を落とすことで燃費を良くする。マツダは排気量を落とさず、無過給で高圧縮比化を目指す。過給機をつければ間違いなくコストが増えるからだ。

 この選択は、小さなマツダにとっては試練だ。一般の人々は大企業のやり方を信用し、新興国は欧米に従う。税金の理屈は過去を踏襲して残り続けている。つまり、排気量が大きいほど、ぜいたくで燃費が悪いという理屈で税金が高くなる。

コストが増えるエコカー技術 コストが増えるエコカー技術(クリックして拡大) 出典:マツダ

 しかし、マツダは今のやり方が正しいと信じている。某社の過給ダウンサイジングエンジンと2.0lのSKYACTIVを比べてみよう。軽負荷の範囲では過給ダウンサイジングの燃費が勝っている。欧州はMTが7割で、カタログ燃費は法定のシフトチェンジのタイミングの関係から軽負荷で計測される。軽負荷さえよければ燃費のいい車だと認識される。しかし、この某社のエンジンは高負荷には弱い。高負荷では圧縮比の高さが効いてくるからだ。

自然吸気と過給ダウンサイジングの差回転数と燃料消費の相関 自然吸気と過給ダウンサイジングの差(左)と回転数と燃料消費の相関(右)(クリックして拡大) 出典:マツダ

 1.2l、1.0l、0.9lなど小排気量のエンジンは、カタログでは燃費が良い。しかし、実用燃費はマツダの2.0lよりも優れているのは1つしかない。大排気量だから燃費が悪いということは決してない。カタログ燃費で税金が決められてしまうので、カタログ燃費にこだわる風潮ができてしまうのだ。

実用燃費なら不利じゃない 実用燃費なら不利じゃない(クリックして拡大) 出典:マツダ

 1.0l、1.4lにも負けない2lエンジンを作る。2.5lでも他に勝っていく。マツダは、排気量が大きくても実用燃費が良く、自然吸気でコストが安いエンジンを作る心意気でやっている。ただ、(今の法律だと)税金だけが高い。ちなみに、北米で出した過給ダウンサイジングエンジン(関連記事:「SKYACTIV-G」初のダウンサイジングターボ、排気量2.5lで新型「CX-9」に搭載)は宗旨替えではない。やるならこれが合理的だという考えを示したものだ。

高価な技術で燃費を改善しても

 年間走行距離と1年間の燃料代、燃費を考えると、低燃費車は元を取れるまでの期間が長い。年間1万2000km走るとして、デミオとあるハイブリッド車を比較すると、ガソリン1lが160円だと年間2万4000円の差がつく。今のガソリン価格でいえば、この差は2万円を切っているだろう。車両価格の差が31万円なので、元を取るには13年かかる計算になる。

 燃費が10km/lから20km/lに改善すると10万円の節約、20km/lから40km/lで5万円の節約、40km/lが80km/lになっても2万5000円の節約にしかならない。ガソリン車の車両価格に100万円上乗せするプラグインハイブリッド車(PHEV)は絶対に元を取れない。電卓があれば誰でも分かるように説明できることだ。

プラグインハイブリッド車は絶対に元を取れない? プラグインハイブリッド車は絶対に元を取れない?(クリックして拡大) 出典:マツダ

 高価な技術を使って燃費を良くしたクルマは元を取れないので、マツダはこの方法ではやらない。マツダの理想は、走るのが楽しくてたくさん運転したくなるけれど、給油すると燃費の良さを実感できるようなクルマだ。内燃機関にこだわることが、環境にも車に乗る人にもやさしいやり方だと信じている。

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