同社は創業初期から松下電器(現:パナソニック)との取引が事業の中心で、全国有数の企業城下町にある典型的な1社請負企業だった。高度成長期は、営業に回らなくても仕事がどんどん入ってきた。不況に強いといわれる電池を扱っていたため、バブル崩壊後も携帯電話機用バッテリーの需要拡大による好影響で乗り切ったという。
しかしそんな同社に転機が訪れたのは2011年のことだ。パナソニックが7500億円以上の巨額赤字を出したのだ。これはさすがに三郷金属工業も大きな影響を受けた。売り上げが激減する中で児島社長は「外に出て顧客を獲得していくしかない」と腹をくくった。これまで、営業に出た経験などなかった。しかし、どうしたらいいかと考え込んでいる暇はなかった。
児島社長はその時の心境について「知覚動考(ともかく動こう)です! 知ったことを覚え、まずは動いてみる。考えるのは最後でいいと思っていました」と語る。
こうして三郷金属工業は新規顧客の獲得に向け、2012年に“初めて”展示会に出展。しかも児島社長1人での出展だ。しかし来場者の目を引くようなパネルも展示物もない。ブースの前を人が通り過ぎていくだけで、誰も足を止めてくれない。児島社長は「俺、何やってんだろう……」とへこんだという。しかしこの失敗の経験を次に生かした。
展示会でレーザー溶接をした電池や部品を机の上に並べただけでは、三郷金属工業の技術の高さは伝わらない。まずブースで足を止めてもらい、話を聞いてもらうところから始めなくてはならない。どうすればいいのか。
そこで児島社長が考えたのが「取っ手付きの缶コーヒー」だ。これは缶コーヒーに、0.2mm厚のアルミの取っ手をレーザー溶接したもので、ブースの前を通った人に「これを持ってみてください」と差し出す。すると「これは何?」っと興味を持た人が足を止めてくれ、話を聞いてもらえる。初めての展示会での失敗の経験を生かした、技術を“見える化”するためのアイデアだ。
さらに児島社長は別の形でも情報発信に注力した。まず自社のWebサイトを開設し、縁があった企業には毎月1回「35通信」というA4の自社製作の新聞を郵送。さらに自社の理念を顧客に伝えるため、町工場のチャレンジをテーマにした電子書籍も出版した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.