結局、オープニングラップはポルシェが圧倒的な速さで1−2−3を獲得し、アウディがそれに続く4−5−6番グリッド、トヨタは7−8番グリッドからのスタートとなった。そして日産は、予選のタイムがトップを走るポルシェの110%以内に入らなかったために、まさかのペナルティを受けて、3台のGT-R LMニスモが決勝グリッドの降格処分を受けることになってしまった。
レースがスタートした後は、ポルシェが圧倒的な速さでリードする中、優勝マシンであるポルシェ19号車と、2014年の優勝チームであるアウディ7号車が夜を徹して、1分程度の差で競い合うという緊張するシーンが続いた。V型4気筒ガソリンハイブリッドとV型6気筒ディーゼルハイブリッド、パワートレインの違いはあるものの、レースシーンでの実力が肉薄していることを見せ付ける争いだった。
しかし、残り時間が8時間を切ったころから、アウディがトラブルに見舞われる不幸が重なって、勝敗が分かれた。アウディ7号車のカウルが剥がれてピットインすることに。ピット作業に思わぬ時間を取られて、5番手まで順位を落としてしまった。さらに不幸は続く。ポルシェに追い付くべく追い込みを掛けていたアウディが、その強烈なプッシュが違反とされてイエローフラッグを受けたり、アウディ8号車のカウルにも同様のトラブルが起こったりするなど、マシンがピットインするシーンが続いた。
その後、カテゴリーの違うクラス「GTE Am」クラスに参戦するAston Martin(アストンマーティン)がクラッシュし、セーフティカーが入った。この間は低速で走らなければならないため追い越しができない。これで、アウディ9号車の直後にいたポルシェ17号車が距離を縮め、レースが再開すると、ハイブリッドシステムによる加速性能の高さで追い越しをかけた。
残すところ6時間を切ったあたりで、2015年のル・マンの勝敗が見えてきた。ポルシェの勝利は確実なものに思えたが、2014年に残り1時間で不幸にもピットに入ったままになって勝利を逃してしまったこともあり、観戦していた誰もがポルシェのマシンの信頼性に対する心配を最後まで抱いていた。
この段階では、アウディとポルシェの上位2チームがトップから3周以内なのに対し、トヨタは2台とも残っているものの、トップから6周/8周の遅れと、上位を狙うのは難しくなった。
日産は、1台が早々にトラブルでリタイアしたものの、残りの2台は98周もの遅れながらなんとかレースに生き残っていた。しかし、最終的には21号車と23号車がリタイアし、22号車が242周でゴールしたものの、周回数の不足で完走扱いにはならなかった。
正直なところ、トヨタは1秒くらいラップを刻んで、後は耐久性を高めればいいだろうと考えたに違いない。しかし、それではライバルたるポルシェやアウディと互角に戦うことはできなかった。耐久性の向上は当然のこととして、改良程度に甘んじることなく、攻めの戦略をとって、全方位でマシンの完成度を高めるべきだろう。
日産はユニークな理論ではあったが、実証が伴わなかった。やはり、ル・マンという特殊なレースに的を絞って、まずは完走を目指すところから実績を積むべきだ。レースに「たら・れば」はないと分かってはいるが、アウディはトラブルさえなければ、ポルシェに肉薄した実力だった。2016年も、好敵手として戦うことを祈っている。
24時間を戦い抜いて、ポルシェが1−2という劇的な勝利を収めた。アウディはトラブル以外は堅実な走りを見せて、3−4位を獲得した。途中に大きなクラッシュをしたものの、ポルシェ18号車が5位、トヨタは1台がなんとか6位に滑り込んだ。7位にハイブリッドのトラブルを克服して走ったアウディを挟んで、8位で1号車のトヨタが完走した。
開幕前には、アウディの14勝か、ポルシェの復活か、マツダの勝利以来、久方ぶりにトヨタが再びル・マンに日の丸をはためかせるか、などとささやかれていた。
しかしポルシェは、2014年のトラブルを糧に、V型4気筒エンジン+KERS+熱回生というユニークなハイブリッドシステムで回生量を8MJまで高めつつ、軽量化と空力も徹底して追求し、妥協することなく全方位でマシンを完成させてきた。そのあくなき努力に、勝利の女神がほほえみを投げかけた2015年のル・マンだった。
川端由美(かわばた ゆみ)
自動車ジャーナリスト/環境ジャーナリスト。大学院で工学を修めた後、エンジニアとして就職。その後、自動車雑誌の編集部員を経て、現在はフリーランスの自動車ジャーナリストに。自動車の環境問題と新技術を中心に、技術者、女性、ジャーナリストとしてハイブリッドな目線を生かしたリポートを展開。カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の他、国土交通省の独立行政法人評価委員会委員や環境省の有識者委員も務める。
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