一方、アウディの新型マシン「R18 e-tron」の進化の鍵は、パワートレインの高効率化と空力性能の向上だった。V型6気筒ディーゼルエンジンの燃費を2.5%向上させる一方で、出力を557ps(410kW)まで引き上げた。2.5%という数字は大したことがないように思えるが、2014年の段階で、2006年にル・マンに参戦した「R10」に搭載された排気量5.5lのV型12気筒ディーゼルエンジンと比べて、40%もの燃費向上を達成している。
これは、ル・マンのレギュレーションでは、ガソリンエンジンを使用するトヨタやポルシェと比べて、軽油を使うディーゼルエンジンのアウディの燃料使用量は100km走行当たり6.16lも少ない計算になるからだ。
組み合わされるモーターの出力は、2014年と比べて17%増の200kWに向上した。その結果、ハイブリッドシステム全体で830ps(610kW)もの出力を生む。回生したエネルギーは、フライホイールに蓄積されている。加えて、Michelin(ミシュラン)と共同開発したタイヤにより、タイヤへの負担軽減と燃費性能向上を図っている。
トヨタのTS040ハイブリッドは、2014年のマシンの熟成版だ。同社としても、2014年のル・マンでは、明け方まで中嶋一貴選手がトップを走っていたのに、その後トラブルに見舞われて優勝を逃した悔いが残っている。そこで、走行性能を向上させるよりも熟成させる方向に舵を切ったのだろう。
熟成版とはいえ、ボディ前端のクラッシャブルストラクチャーなどを改良して、効率良くタイヤを使えるようにサスペンションの設計を見直し、軽量化も行っている。エントリーした2台のうち、1台は高速で走るル・マンに対応したものであり、もう1台はダウンフォースを高めたスプリントパッケージとして、リヤウィング、エンジンカバー、フロントのボディワークなどを改良している。
その結果、予選の段階でTS040ハイブリッドは、2014年と比べて1周当たりラップタイムを1秒縮めていた。にもかかわらず、アウディとポルシェに対してかなり遅れをとってしまった。
いや、トヨタが遅いわけではなく、ポルシェとアウディがめっぽう速いのだ。トヨタは2014年のトラブルがあっただけに安定した走りを目指してきたのだろう。しかし、アウディとポルシェの新型マシンは2014年と比べて着実に進化している。ダンロップのアーチに向かう上り坂では、短い時間で強大なトルクがデリバリーされていることが分かるほどの差で、マシンの性能の違いを見せつけた。
一方、前輪駆動という独自の方式で参戦した日産自動車(以下、日産)の「GT-R LMニスモ」は、直前までハイブリッドシステムの課題がクリアされていなかった。ただ、現在のレギュレーションは、リヤのダウンフォースを減らして、コーナリングスピードを低める方向にある。日産の「フロントのダウンフォースを生かして前輪駆動で戦う」という方針は、理論上は正しい。
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