2014年のル・マン復活参戦からわずか2年目で、ポルシェが勝利を手中に収めた理由は大まかに分けて3つある。
第1の勝因としては、2014年にル・マン24時間耐久レースを含むWECに復帰し、当初からル・マンでの勝利を目指してレース車両を作り上げてきたことが挙げられる。ル・マンの開催地である「サルト・サーキット」は、ユノディエールと呼ばれる長い直線コースがあり、過去には最高時速400kmを越超えることもあった。マシンの進化に伴って危険性が取り沙汰されて以降、シケインが2カ所追加されたにもかかわらず、2015年のレースでも時速350km超を記録するマシンもあったほどだ。
このように高速サーキットで開催されるがゆえに、ル・マンでは空力性能が重視される。コース1周も13.629kmと長い。直線コースであるユノディエールの後に続くミュルザンヌコーナーや、ブレーキ性能が試されるインディアナポリスコーナー、ポルシェカーブから続く高速スラロームといった技術を要するコーナーが多く存在する。
第2の勝因は、ターボチャージャー付き排気量2l(リットル)のV型4気筒エンジンに、8MJもの回生が可能なハイブリッド機構を組み合わせて、高効率かつ大きなエネルギーを放出できる仕組みを選んだことだ。フロントにKERS(運動エネルギー回生システム)と呼ばれる回生システム、運転席の脇にリチウムイオン電池、リヤに可変ベーンタービンを使った熱回生機構を搭載する。排気量2lのV型4気筒と聞くと、随分小さなエンジンを積んでいるように思うが、500ps(368kW)以上の出力を生むハイパワーユニットだ。これに、モーターからの駆動力である400ps以上と熱回生が加わると、システム出力は1000psに達する。
第3の勝因になるのが、大きなエネルギー回生に対応したリチウムイオン電池の採用だろう。レースでは強烈なブレーキを掛けるが、その際に捨てるはずの運動エネルギーをモータージェネレーターユニット(MGU)で電力に変換してリチウムイオン電池に蓄える。さらにポルシェは、熱エネルギーを回収する仕組みも併用している。
加速時には、蓄えた電気エネルギーを使ってモーターを駆動して、エンジンからの出力にアドオンする。トヨタのキャパシタ、アウディのフライホイールと比べて、リチウムイオン電池による電力の蓄積は大容量に対応する上に、いざ放出となったときに瞬時にエネルギーを放出できるように性能も高めたという。
さらには、念には念を入れて、919ハイブリッドを3台エントリーし、ドライバー陣も元F1ドライバーのマーク・ウェーバー選手、現役F1ドライバーのニコ・ヒュルケンベルク選手といった実力派をそろえた。優勝したマシンを駆ったヒュルケンベルク選手のチームメイトであるアール・バンパー選手とニック・タンディ選手は、ポルシェGTプログラムから選び抜かれた精鋭だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.