志田氏 オートデスクにもWeb上で3Dデータを共有するギャラリーページ「3D Models」がありますが、日本人の利用状況はどうでしょうか? Webサイトが英語なので抵抗感もあるような気がしますが?
塩澤氏 Webといえども、3Dデータの共有となると何らかの“コミュニケーション”が必ず発生します。3Dデータ作品のアピールはもちろんのこと、他のユーザーからのコメントに対しても英語で応えなければなりません。そういった意味で、躊躇(ちゅうちょ)する人はいると思います。
また、公開する3Dデータについても日本人の場合、皆が納得するような素晴らしいものでないと公開するのが恥ずかしいと思いがちです。米国人のように(実はそんなに大した3Dデータでもないのに)、「どうだ、俺のすごいだろ!」みたいなノリはないですよね。ですから、オートデスクのギャラリーページでいうと、日本人の利用率は圧倒的に少ないと思います。
新井原氏 XYZクラウドギャラリーも3Dデータを公開する日本人はまだまだ少ない状況ですね。日本人ユーザーの作品を見てみると、まるで品評会を勝ち抜いたかのようなレベルの高い3Dデータが多いですね。国民性でしょうか。塩澤さんのおっしゃる通りだと思います。
志田氏 単なる3Dプリントサービスではなく、作った3Dデータをマーケットに公開し、注文を受けた後にそれを実際に造形して配送するビジネスモデル(例:DMM3Dプリント)も登場していますが、どのようにお考えでしょうか?
塩澤氏 米国の「Shapeways」や日本だと「rinkak」なども、3Dデータをアップロードしてオーダーが入るとその売り上げの一部が得られるというサービスが存在しますね。3Dデータで商売できる環境が整いつつあるといえるでしょう。
私は近い将来、3Dモデリングのスキルでご飯を食べていける、「3Dモデラー」という新しい職業が日本でも登場すると信じています。実際、海外ではそういった人たちが活躍し始めています。
新井原氏 やはり、3Dデータが流通するようになると、今度はそれをどうにかしてビジネスにつなげたいというニーズが出てくるでしょう。実際、3Dデータの世界でもDRM(デジタル著作権管理)のようなデータ保護の議論や動きも生まれています。3Dデータが当たり前のようにインターネットの世界で流通し、より多くの人がそれを活用するようになれば、今世の中にない新しいサービスやビジネスモデルも生まれることでしょう。企業だけでなく、個人にとっても大きなビジネスチャンスがあると思います。
志田氏 3Dデータの流通には、やはりモデリングツールの存在が欠かせません。123D DesignやFusion 360は今後どのように発展していくのでしょうか?
塩澤氏 業務用でご利用頂いているオートデスクのプロ向けデザインツールの中には、汎用的な機能を実装したベーシックなものを土台に、発展を遂げていったものが多くあります。特に用途を限定せずにツールの提供を始めてみると、機械設計、電気設計、建築設計といろいろな用途で使われていきます。こうした利用状況を受け、われわれは、それぞれの用途に対して必要な機能を洗い出し、個別の特定用途向けツールとして開発・提供していくのです。
現在、無償で提供中の123D Designは、特定用途向けツールではありません。おかげさまで非常に多くの利用者がいますので、もしかするとフィギュア向け、メカ向けといったような用途向けの機能ニーズがあるかもしれませんが、そうした機能を123D Design自体に盛り込んでいくと使いこなすのが難しくなってしまいます。そうなってしまうと、初心者にとって使いづらいツールになってしまいますし、既存ユーザーも離れていってしまうかもしれません。ですから、123D Designはベーシックな3次元CADの機能を備え、3Dプリントを手軽に楽しめるツールという位置付けをそのまま維持したカタチで発展していきます。
一方で、もっと自由な形状を作りたい! もっと高度な設計をしたい! という人には物足りない面もあるでしょう。そういった方のために、Fusion 360を用意しています。個人やスタートアップであれば無償で使えます。ソリッドだけでなく、サーフェス、ポリゴンも使え、クラウド利用を可能にするなど、オートデスクとしても新しいテクノロジーを積極的に取り込んでいるツールの1つです。123D Designと同じく汎用的な3次元CADというポジションですが、より高度で自由度の高いモデリングを行いたい人には最適だと思います。
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