その一方で、3Dプリンタの進化の余地はまだまだあると思います。今後の開発の方向性について、メーカーとしてどう見ていますか?
新井原氏 出力物の仕上がりの美しさや精細さなどは、技術革新とともに上がっていくでしょう。仕上がりとともに多くの皆さんが課題と感じている造形スピードについても、技術革新や既存技術同士の組み合わせなどで改善されていくのではないでしょうか。
もちろん、やみくもにスピードアップすればいいものではありません。2次元のドキュメントプリンタも技術革新により、スピードや仕上がりの美しさを向上させていきました。今の技術をベースに発展していくのか、全く新しい技術を採用してより進化していくのか分かりませんが、3Dプリンタが1年後、2年後「今のまま」であることはないでしょう。また、「フードプリンタ」に代表されるような3Dプリンタの技術を応用した、新たな展開も近い将来あり得ます。
塩澤氏 オートデスクでは、光造形方式の3Dプリンタ「Ember」やオープンソースの3Dプリンタソフトウェア基盤「Spark」の開発などを進めています。また、従来の光造形方式よりも高速で、積層痕のない造形を可能にする技術を持つベンチャー企業カーボン3Dに対し、約1000万ドルの投資を行ったばかりです。われわれは、モデリングツールの提供だけでなく、3Dプリンティング技術の発展のため、ハードウェア面、ソフトウェア面、材料面での支援に積極的に取り組んでいます。
志田氏 3Dプリンタの一般家庭への普及は本当にあり得るのでしょうか? 日本の家庭で受け入れられるのでしょうか?
塩澤氏 今や一家に1台ある2次元のプリンタは、デジタル写真や年賀状の印刷によって急速に普及しました。特に年賀状印刷は、日本人なら必ず年に一度は作成する「キラーアプリケーション」といえます。3Dプリンタの世界でも、年賀状印刷のようなキラーアプリケーションを探し求めている状況です。これが見つかれば、一気に普及するのではないでしょうか。
新井原氏 日本人ならではの習慣や年間行事などにハマれば、3Dプリンタの出荷台数もさらに伸びるかもしれませんね。逆にいえば、誰もが使いたがるようなシーンを作り出せないと、いつまでたっても特殊な工作機械という印象のままかもしれません。
塩澤氏 利用者の属性でいうと、正直、今の段階で3Dプリンタに興味を持っている人は、テクノロジー好きな人がほとんどだと思います。そこから少しずつモノづくり好きな人が増えていき、その中で、さらに作りたいモノ別に細分化が進んでいくと予想されます。もしかすると、こうした流れの中からキラーアプリケーションが生まれる可能性もあるかもしれませんね。
志田氏 さらに、3Dプリンタの使われ方の可能性でいうと、3Dモデラボのコンテスト「兜」×「3Dプリンタ」のように、コンセプトとテクノロジーの交差点で、何か面白いものが生まれるかもしれませんね。
塩澤氏 今考えているのは、造形物に対するフィニッシングです。rinkakでは、3Dプリントした造形物に藍染めや漆塗りを施すといったことをやっています。昔からあるものが新しいものに置き換わるのではなく、伝統とテクノロジーが融合して新しいものが生み出されるという取り組みです。こういうものであれば、伝統工芸になじみのある日本人に興味を持ってもらえるもしれません。
新井原氏 XYZプリンティングも各種イベントの出展や、3Dモデラボが主催するワークショップ、モデリングコンテストに協力することで、3Dプリンタの普及とともに、新しい使われ方の可能性を模索しています。先日行ったワークショップでは、懐かしのスーパーカー消しゴムサイズの小さなクルマをモデリングして、3Dプリンタで出力し、ノック式ボールペンで弾いて遊ぶ、1日イベントをサポートしました。昭和の遊びと3Dプリンタという一見するとミスマッチな組み合わせでしたが、イベントは大変盛り上がりました。
いろいろなテーマに話がおよんだが、今回、同席してあらためて感じたのは、3Dデータの流通を軸にした新たなビジネスモデルの可能性の大きさだ。3Dモデリングツールや3Dプリンタ、素材や関連サービスが、技術革新とともに進化していくことは間違いないだろう。そして、いつの日か3Dプリンタにおけるキラーアプリケーションが登場すれば、一気に3Dプリンタが家庭内に入り込んでいくに違いない。そうなってくると、3Dデータの価値はこれまで以上に高まっていくはずだ。もしかすると数年後、3Dモデラーという職業が当たり前の世の中になっているのかもしれない。
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