東京大学は、寒冷時に熱産生遺伝子の発現を急速に活性化して体温を維持するには、熱産生をつかさどる遺伝子DNA(クロマチン)の急速な立体構造変化が必須であることを解明したと発表した。
東京大学は2015年5月15日、寒冷時に熱産生遺伝子の発現を急速に活性化して体温を維持するには、「転写因子」と呼ばれるタンパク質群の働きだけではなく、熱産生をつかさどる遺伝子DNA(クロマチン)の急速な立体構造変化が必須であることを解明したと発表した。同研究は、同大先端科学技術研究センター代謝医学分野の酒井寿郎教授、稲垣毅特任准教授、阿部陽平特任研究員らの研究グループによるもの。
ヒトや哺乳動物は、体が寒冷環境に置かれると中枢でこれを感知し、交感神経からの刺激によって、熱産生を専門に行う褐色脂肪組織で迅速に熱が産生され、低体温になることを防ぐ。同研究グループはこれまで、核内で遺伝子DNAのメチル基を除去するJMJD1Aタンパク質を欠損したマウスが低体温に陥ることを明らかにしていたが、その仕組みは分かっていなかった。
同研究ではまず、質量分析解析から、交感神経から寒冷刺激を受けた核内のタンパク質「JMJD1A」の265番目のセリン残基がリン酸化されることを発見した。このアミノ酸をアラニンに置換し、リン酸化されない変異体JMJD1Aを褐色脂肪細胞に発現させると、寒冷刺激で誘導される熱産生遺伝子群の発現誘導が著しく低下し、褐色脂肪細胞での熱産生が低下した。
さらに、質量分析解析から、このリン酸化が引き金となって、「遺伝子の高次構造を変化させる複数のタンパク質群(SWI/SNF)」や「褐色脂肪細胞の機能に重要な核内受容体(PPARγ)」と複合体を形成することが分かった。この複合体が、「長距離DNAルーピング」と呼ばれる遺伝子の高次構造変化を起こすことで、熱産生・エネルギー消費
を制御していることが分かった。これら一連の変化は、数分から十数分の速さで起こり、熱産性に関わる遺伝子の発現を急速に促すという。
同研究成果は、JMJD1Aタンパク質を標的とした、低体温症や熱産生・エネルギー消費が低下して起こる肥満のための新規治療法や予防法にもつながるとしている。
なお、同研究は、2015年5月7日に国際科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載された。
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