京都大学は、アルツハイマー病患者の脳において、特に疾患初期に蓄積する老人斑に固有と考えられる繊維状アミロイドβタンパク質の新たな立体構造を発見したと発表した。
京都大学は2015年5月18日、アルツハイマー病患者の脳において、特に疾患初期に蓄積する老人斑に固有と考えられる、繊維状アミロイドβタンパク質の新たな立体構造を発見したと発表した。同大医学研究科の星美奈子特定准教授(先端医療振興財団客員上席研究員)が、Yoshitaka Ishii University of Illinois at Chicago教授、Ruth Nussinov National Cancer Institute at Frederick主任研究員のグループと共同で研究したもの。
アルツハイマー病は、40〜43残基の長さを持つAβペプチドが集合し、毒性を持つことで発症すると考えられている。そのため、Aβの構造解析が必要とされていたが、ペプチド自身に複数の種類があり、環境に応じて機能が異なるさまざまな集合体を作るため、ハードルが高い領域の1つとされていた。
これまで、Aβの中でも42残基のもの(以下、Aβ1-42)の方がAβ1-40に比べて凝集体を形成しやすいこと、形成された凝集体の毒性が高いことが明らかにされてきた。さらに、疾患初期に認められる老人斑では、Aβ1-42から形成されていること、遺伝的な家族性のアルツハイマー病では、Aβ1-42の形成効率が高まることなど、Aβ1-42の方がより発症を促進している可能性が示唆されていた。しかし、それが分子レベルでどのような違いをもたらしているかは明らかにされていなかった。
今回の研究では、サンプル調製を工夫することで、Aβ1-42だけが形成できる「トリプルβシート」という立体構造を固体NMRによって明らかにした。この構造は、Aβ1-40では形成できず、また、この構造をAβ1-42に加えると、それを鋳型に同じ構造体を作るが、Aβ1-40ではできないことが分かった。
同成果は、Aβ1-42とAb1-40の違いについて、初めて分子レベルで解明したものとなる。Aβ1-42による構造はAβ1-40に伝播(でんぱ)されないことを示したことで、アルツハイマー病の初期において、1カ所で凝集が起これば、配列に依存して構造が増幅されていく可能性を提示した。このことは、アルツハイマー病脳の初期過程に迫る手がかりになるとしている。
なお、同研究成果は、2015年5月5日に英科学誌「Nature Structural & Molecular Biology」電子版に掲載された。
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