ハノーバーメッセ2015のメインテーマとなった「インダストリー4.0」。製造業にとって魅力的なビジョンである一方で、具体的な姿をどう捉えるかで多くの企業が迷いを見せているのが現状だ。本連載では、現地での取材を通じて、インダストリー4.0に関する各社の動きを3回にわたってお伝えする。
ドイツのハノーバーで2015年4月13〜17日に開催された生産技術の展示会「ハノーバーメッセ2015」では、主要テーマの1つとして「インダストリー4.0」が掲げられ、多くの企業がそれぞれの立場から解釈した「インダストリー4.0」を出展していた。本リポートでは、ハノーバーメッセでの各社の出展内容をベースとし、3つの切り口でインダストリー4.0の現状を紹介する。前編である今回は、インダストリー4.0が目指す「“一段上”の自動化」を切り口に、モノづくりの変化について紹介する。
インダストリー4.0はドイツ連邦政府が主導するモノづくり革新プロジェクトだ。2011年のハノーバーメッセで発表された。業界団体を巻き込みながら、産官学のクラスタを形成し、それぞれが研究開発を進めているところだ。インダストリー4.0が目指しているのは「マスカスタマイゼーションを可能とするスマートファクトリーの実現」だ。マスカスタマイゼーションとは、大量生産(マスプロダクション)と同等の効率で、1つ1つのカスタム製品を製造できるようになること。
例えば、エンドユーザーから注文が入った時点で、製造を行うロボットや製造装置が自律的に判断して生産内容を変更し、注文品を自動で作るようにするという世界だ。人間がいちいち判断することなく、連携されたシステムの情報を総合的に判断し、最適な結果を導き出すことで、従来の生産システムになかった生産性を実現することを目指す(関連記事:ドイツが描く第4次産業革命「インダストリー4.0」とは?【前編】)。
これらの背景には、ドイツの製造業を取り巻く環境の変化がある。ドイツの製造業環境は、コスト高やエネルギーコストの上昇、少子高齢化による労働力の減少など、日本と同じ悩みを抱えている。ドイツも日本と同様GDPの20%近くを製造業が支えているが、豊富な労働力を武器とし生産能力向上も目覚ましい中国や、グーグルなどのIT企業が製造領域への進出を加速させている米国などに押され、今後もこの環境を維持できるかどうかは不透明な状況だ。これらを打破するために、自ら革新に踏み出したという形だ。
では、具体的に「インダストリー4.0が何を指すのか」ということがハノーバーメッセで見えたかというと、まだまだこれからだというのが現状だ。ハノーバーメッセの会期中に開催された日独経済フォーラムでも「ドイツが国策として進めているインダストリー4.0と、インダストリー4.0が目指す方向性にある“インダストリー4.0のようなもの”とを区別して見なければ駄目だ」という指摘が三菱電機 名古屋製作所 e-F@ctoryプロジェクトグループマネージャー 楠和浩氏から出ていた。
ドイツが国策として進めているインダストリー4.0については、ドイツ各地の研究機関を中心とした産官学の研究開発クラスタが形成され、それぞれの研究開発が進められているところだ。
一方で、その動きと関連しつつも、ハノーバーメッセでは各企業や団体が描く「インダストリー4.0で到達する製造業や製造現場の姿」が数多く出展されていたのが象徴的だった。「ネットワーク機能を搭載しているだけで『インダストリー4.0対応』としているところもあった」など、インダストリー4.0をマーケティング先行で活用するようなケースもあったが、まだ「明確な形」が定まらない中で、それぞれの企業や団体の描く「自分たちのインダストリー4.0はこれだ」という姿が数多く出展された。
その方向性の1つとして出ていたのが「一段上の自動化」の実現だ。ハノーバーメッセでは、従来できなかった領域において自動で生産する技術やデモなどが数多く登場した。
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