先述した通り、目黒碑文谷店で片桐氏にインタビューさせていただいた当日、ショールームには正式発表前のCX-3が既に展示されていた。聞けばその前の週からショールーム展示を始めたのだとか。来店客が発表前のCX-3を普通に眺めたり、乗り込んだりしている様子を見ていて、顧客に対してショールームの鮮度を保つという姿勢はこういうところにも出ているのだなと好ましく感じた。
そして数日後となる2015年2月27日、CX-3のメディア向け発表会が東京都内で開催された。デミオとプラットフォームを共有する、コンパクトクロスオーバー車である。プレス資料には「次世代のスタンダードを創造する」と掲げられている。
排気量やボディサイズ、駆動方式もさまざまながら、乗用車をベースに少し視点の高いドライビングポジションを持つこのコンパクトクロスオーバーというジャンルのクルマの市場は近年拡大してきている。マツダ社長兼CEOの小飼雅道氏の、「コンパクトクロスオーバーの市場は、今後グローバルに拡大し、2020年には2014年の2倍以上になることが見込まれる。この成長市場は、競合車がひしめく重要なジャンルとなると予測している」というスピーチからも期待が伺える。
多くの人が思い浮かべる「クルマらしいカタチ」の標準が、オーソドックスな3ボックスのセダンであったのは今や遙か昔。日本国内の道路環境での使い勝手を考えると、取り回しのいいコンパクトなボディサイズ、少し高めの視界による運転や乗り降りのしやすさ、さらに日本の都市部での要望も大きい「立体駐車場に入る全高」を兼ね備えるコンパクトクロスオーバーのクルマの方が「スタンダード」になっていくのかもしれない。
ただ現状では、この手のジャンルのクルマを選んでいるのは、ちょっとだけ他人とは違うライフスタイルへのこだわりを主張したい、そんな心理を少なからず持つタイプの人であるように見受けられる。魂動デザイン以降のマツダブランドに、興味を抱いて欲しいユーザー層とも合致するだろう。
そういった感じでユーザー層を想像しながら「次世代のスタンダード」という言葉を聞いていて、今後「クロスオーバー」ジャンルのクルマが「普通のクルマ」となったとしたら、「他人とちょっと違う」ことを気にするこの人々は何を選ぶのだろうかと疑問に思った。
さてCX-3に話を戻すと、最新の魂動デザインとなるこのクルマは、これまでの他のモデルと比べてエッジ感も強めに感じる端正な印象に仕立ててきている。マツダ デザイン本部長の前田育男氏のインタビュー記事で紹介されているように、「CX-3と『NDロードスター』が魂動デザインのブックエンドの両端となる」という解説も頷ける。このブックエンドでラインアップのデザインをするというのは、BMWでクリス・バングル氏がデザイン部門を率いていた時代に解説されていたのが記憶に新しい。
大きな「7シリーズ」からコンパクトな「3シリーズ」までを、簡単に表現すると「同じようなデザインでのボディサイズ違い」で群としてのBMWらしさを表現するのが、それまでのBMWのデザインだった。しかしクリス・バングル時代になって、7シリーズの「E65型」でデザインを大きく変えたことにより、BMWファンやメディアで多くの議論を巻き起こした。その後にまたテイストが全く異なるデザインの「Z4」の「E85型」を発表したが、この2モデルがBMWデザインのブックエンドの両端であるという解説であった。
それぞれブランドしての狙いどころが異なる2社を単純比較できないが、BMWのブックエンドデザイン戦略と比較すると、マツダの魂動デザインのブックエンドはびっくりするほどの幅を求めているわけではないように感じる。これはどちらが「良い/悪い」とか、「正しい/間違っている」とか、戦略の違いとして興味をひかれる。
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