「新価値創造展2014」ではインダストリー4.0をテーマとしたビジョンセミナーを開催。各界3人の有識者が登壇し、「インダストリー4.0とは何か」や「どういう価値をもたらし、どういう課題があるのか」を解説した。中編では、ドイツのフラウンホーファーIPA(生産技術・オートメーション研究所)のヨアヒム・ザイデルマン(Joachim Seidelmann)氏の講演「科学技術の観点から見たインダストリー4.0」の内容をお伝えする。
「新価値創造展2014」(2014年11月19〜21日、東京ビッグサイト)では2014年11月20日、インダストリー4.0をテーマとしたビジョンセミナーを開催した。
今回のセミナーでは、冒頭にドイツ連邦共和国 ザクセン州経済振興公社 日本代表部 代表(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 国際営業部副部長)の尾木蔵人氏がインダストリー4.0の概要と生まれた背景について解説。続いて、ドイツのフラウンホーファーIPA(生産技術・オートメーション研究所)のヨアヒム・ザイデルマン(Joachim Seidelmann)氏が「科学技術の観点から見たインダストリー4.0」をテーマに、技術的な概要と現在までの研究成果を発表。最後にSIヤーのピアーグループ(ドレスデン)社長のマイケル・アーノルド(Michael Arnold)氏が「ITソリューション企業から見た第4次産業革命」をテーマに講演した。
前編では、インダストリー4.0の概要を説明した尾木氏の講演内容を紹介したが、中編では、「インダストリー4.0実現のための提言書」の執筆者の1人でもあるザイデルマン氏による講演内容を紹介する。
ドイツのフラウンホーファーIPAはさまざまな領域に高い知見を持つ研究機関で、インダストリー4.0の展開にも大きな役割を担っている。インダストリー4.0の推進は、ZVEI(ドイツ電気・電子工業連盟)やVDMA(ドイツ機械工業連盟)、BITKOM(ドイツIT・通信・新メディア産業連合会)などを含む産官学の機関が参加する「インダストリー4.0プラットフォーム」によって、議論されている。2014年4月にインダストリー4.0プラットフォームからドイツ政府に「インダストリー4.0実現のための提言書」が提出されたが、ザイデルマン氏はその執筆者の1人である。
ザイデルマン氏はインダストリー4.0の定義について「IoT(Internet of Things、モノのインターネット)やIoS(Internet of Services、サービスのインターネット)が工場に入るということだ」と語る。IoT(Internet of Things、モノのインターネット)やIoS(Internet of Services、サービスのインターネット)を活用することで、生産や物流を『サイバーフィジカルシステム(Cyber Physical System)』で結合することを目指す。前編でも触れたが、サイバーフィジカルシステムとは、工場全体の現場(Physical)の情報をセンサーやRFIDを活用することで、ICTシステム(Cyber)上に取り込み、これを蓄積・分析し、これらのフィードバックを現場に反映させるという仕組みのことだ。
「サイバーフィジカルシステムによりスマートファクトリーを実現する。インダストリー4.0はこれらのスマートな生産方式や手順、業務プロセスなどを作り上げていく取り組みだ。スマートファクトリーで作り出したインタフェースは、今後スマートインフラを構築していくためのキーコンポ―ネントとなっていくだろう」とザイデルマン氏は語っている。
それでは、インダストリー4.0によってもたらされる新たな可能性としてはどういうものがあるだろうか。Final Report of the German Expert Group INDUSTRY 4.0によると、そこには8つの潜在的な可能性があるとされている。
潜在的な可能性の1つとして「高賃金国としてのドイツの国際競争力」が挙げられているが、ドイツがインダストリー4.0に取り組むようになった理由には、ドイツの置かれている環境がある。ドイツがインダストリー4.0に取り組む環境的な要因として、モノづくり立国として政府が関与するグローバル競争が過熱しているということがあるからだ。
新たなモノづくりの姿としてIoTを活用した取り組みについてはドイツ以外でも、各国政府が力を入れ始めている。例えば、米国では次世代の製造業の研究予算を19%(22億米ドル)増加させている。また、中国では2015年までに1兆2000億ユーロの予算を掛けて、高度な生産装置の研究を進めるとしている。さらに欧州委員会でも生産におけるIoTの活用に対し、さまざまな研究が進められており、90億ユーロ以上の予算が掛けられているという。
ザイデルマン氏は「ドイツが製造立国として地位を維持し続けるにはこれらの動きに対抗する必要があった」と語っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.