世界の最高峰にあるといわれる日本の製造現場や製造管理。しかし、これらの現場や管理術を持っていても、その中で企業として“もうかっている”製造業は一部に限られます。なぜ、このような状況が発生するのでしょうか。本連載では「$CMに進化するSCM」と題し、製造現場で損益が“見える”ようになる価値を、業種に合わせて紹介します。1回目は組み立て系製造業について解説します。
グローバル化の流れとともに、日本の製造業が競争の中で苦境に立ち、利益を出せない状況が増えてきています。しかし、製造業として、日系企業は“強い現場力”が定評となっており、また生産管理の手法や技術は、世界中から高く評価されています。“世界一強い現場”を抱えながらなぜ、日本の製造業は“もうからない”のでしょうか。そこには製造の現場において数量と段取り回数や納期遵守率といった日頃のKPIは見ているが、「損益を見る」ということができていないことに要因があります。
そこで本連載では損益を加えたサプライチェーンマネジメントの事例を通じ、「なぜ現場で損益を把握していなければならないのか」「その効果にはどのようなことがあるか」という点について、業種に応じて解説していきます。初回となる今回は、「組み立て系製造業」の抱える問題とSCMに損益要素を加えることの価値について紹介します。
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この記事をご覧の製造関連部門の皆さまの中には、これまでに営業部門から、急なオーダー変更や計画変更の要求を受けたことがある人も多いと思います。そういう時には、「重要で優先度が高いからやってくれ」というのが営業側の常套句(じょうとうく)となっています。製造部門では、この要求に対し、何とかして要求に応えるために、生産計画を変更し、段取りや計画外のライン停止を行い、何とか要求に応えます。そして、依頼元からも感謝されて、一定の達成感に包まれて、その日の仕事を終えます。
しかし、この「重要で優先度が高い」というのは本当のことなのでしょうか。こうした動きに対し、右往左往している製造部門や需給調整部門を経営層はどのように見ているのでしょうか。実は、経営層の見方は以下のようなものです。
「目標よりも稼働率・生産効率が下がって、単位当たり原価も悪化している」。さらに、営業が定価よりも安い値段で販売していたら、目も当てられません。「製造部門は売れば売るほど赤字のモノを作っている」とも言われかねません。
一般的な製造業では、営業をはじめとする販売部門は「売り上げの最大化」、製造をはじめとする供給部門は「コストの最小化」、需給調整部門は「全体の調整・最適化」という目標を課されています。うまく回っている状態では、各部門がそれぞれの目標を達成することによって、企業はその利益目標を達成するという構図になっています。
しかし、営業部門が売り上げ目標達成のための営業活動に奔走し、供給部門がコストダウンのための改善活動を続け、需給調整部門は夜遅くまで両者間の調整に追われているにもかかわらず、経営側から見ると無駄にしか思えない状況が発生しているケースがあります。冒頭で示したケースなどの他「売りたくてもモノが無い」「製造効率向上のために作ったモノが売れずに余ってしまった」などの問題は、どこの製造現場でも生まれています。
このような問題を解決するため、需給調整機能の設置・強化やSCM強化などが行われています。しかし、多くの企業ではいまだに、製造・販売・需給調整の間でギャップが生まれる問題を抱えており、問題が解決されているとはいえません。なぜ今までのこうした取り組みは実を結んでいないのでしょうか。
これまでの需給調整活動は、主に販売部門・供給部門および需給調整部門の3者間で行われており、取り上げられる数値は「数量」でした。さらにその決定プロセスは、販売部門か供給部門のどちらか「声が大きい」側の意思に沿うことが多かったのではないでしょうか。しかし、この「数量」だけを見て決定された結果は、経営的に見て妥当であるとはいえません。そこにこの問題の根幹があります。
昨今、このような問題の解決策として数量での生産計画、需給調整プロセスに対し、金額と利益要素を足して計画を捉え直す取り組みが増えてきました。販売部門と供給部門の間でどうしても起きてしまう「健全な衝突」を、客観的で経営的な視点で捉え直そうというものです。すなわち「売り上げ」だけでなく、「コスト」だけでもなく、「利益」の視点を持って、需給上の意思決定を行う取り組みです。
今回は、そういった取り組みを実際の実践事例を中心に紹介したいと思っています。さらに、製造業の中でも、比較的、販売部門の「声が大きい」組み立て産業と、供給部門の「声が大きい」プロセス産業の両方を取り上げ、それぞれの共通点と違いを比較評価します。
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