下川氏は、日本の企業にもデザイン経営が取り入れられつつあるとして、複数の企業の例を紹介した。同氏が「デザインベンチャー」と呼ぶ、デザインを活用して新たな市場を開拓した企業が幾つも登場しているという。
「アッシュデザインというベンチャー企業は動物型にデザインした輪ゴムを販売している。同社はデザインによって輪ゴムに新しい価値をもたらしている。また、プラスマイナスゼロという企業は、これまで部屋の片隅に置かれていた加湿器を、デザインで家電からインテリアへと変えている。その結果、加湿器がギフト用品としても購入されるようになった」(下川氏)。
同氏は、その他のデザインベンチャーの例として家電メーカーであるバルミューダを紹介した。2003年に創業した同社は「GreenFan」と呼ばれる扇風機などを販売している。同氏によれば、バルミューダ代表取締役社長の寺尾弦氏は「これからは環境に配慮した省エネの時代が来る。省エネでありながら涼しく/暖かくするために空気をデザインすることが大事になってくるのではないか」と考え、GreenFanの開発を決断したという。
バルミューダは空気を“デザイン”するために9枚の羽根から構成されるファンを独自に設計・開発した。回転時の音が静かでありながら、遠くまで風を届けられる設計になっているという。同社はこのファンを「自分たちの大切な資産」(下川氏)であるとして意匠登録しており、「GreenFan」だけでなく、空気清浄機「AirEngine」、サーキュレーター「GreenFan Cirq」にも活用している。
下川氏は、こうしたバルミューダの製品開発を3Dプリンタが支えていると説明し、同社が空気清浄機「JetClean」を開発する際、空気を吸引するためのターボファンの試作に3Dプリンタを利用した事例を紹介した。このターボファンを開発するために100個近くの試作品を3Dプリンタで製造して検証を行ったという。
下川氏によれば、こうしたデザイン経営に取り組む企業の製品開発には「試作を重視する」という特徴があるという。その背景に、3Dプリンタをはじめとするデジタル技術の発展があると説明し、トンボ鉛筆の修正テープ「モノエルゴ」や、備前焼にも3Dプリンタが利用されている事例を紹介した。
トンボ鉛筆のモノエルゴの開発には、ユーザーが最も使いやすいと感じるデザインを追求するために3Dプリンタが利用されたという。複数の試作品を3Dプリンタで作り、ユーザーテストを繰り返してその結果を反映させている。また、備前焼のような工芸品でも、デザイナーがアイデアを描いたスケッチを基に3Dプリンタで試作品を作ることがあるという。
下川氏は、「3Dプリンタなどのデジタル技術の発展によって、開発の上流段階での“粗い”試作が製品開発の大きな方向性を担う事例も増えており、経営とデザインと技術の関係がより密接になりつつある。また、開発が進んだ段階で多くの試作品を作って何度も検証を行えるため、デザインの精度向上を図るれるようになったことも大きい。こうしたデジタル技術の発展がデザインを支えており、メイド・イン・ジャパンの製品にもデザイン経営の潮流が生まれつつある」と述べ、講演を締めくくった。
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